確率統計で考える公差設計:若手エンジニアのための機械設計入門(7)(2/2 ページ)
3D CADが使えるからといって、必ずしも正しい設計ができるとは限らない。正しく設計するには、アナログ的な知識が不可欠だ。連載「若手エンジニアのための機械設計入門」では、入門者が押さえておくべき基礎知識を解説する。第7回では、設計におけるバラつきを前提に、確率統計の考え方を公差設計にどう応用するかを分かりやすく説明する。
標準正規分布とは?
正規分布とは、データが平均値を中心に左右対称にバラつく、滑らかな山形のグラフです。このうち、特にシンプルな形のものが「標準正規分布」と呼ばれます。平均値(μ)=0、標準偏差(σ)=1のとき、この分布を「N(0,12)」と表記します。
図3は、標準正規分布のグラフを示しています。このグラフの横軸は、標準偏差の何倍に相当するかを表しています。そのため、±1の区間では1倍、±2の区間では2倍、±3の区間では3倍となります。
標準正規分布は、「平均が0、標準偏差が1」に統一された、特別な正規分布の形です。しかし、実際に発生する正規分布をヒストグラムで表すと、平均値は0ではない場合が多く、図4のようになります。
不良率を求めるには、「標準正規分布表」を使用します。標準正規分布表は、「標準正規分布において、ある値以上となる確率」を示しているため、図4のような任意の平均値と標準偏差を持つ正規分布から、そのままでは不良率を求めることができません。
そのため、実際の正規分布(平均値μ、標準偏差σ)を標準正規分布に変換する「標準化」を行う必要があります。標準化によって、任意の正規分布を「平均0、標準偏差1」の形に変換できるようになり、標準正規分布表を用いて不良率を求めることが可能になります(図5)。
標準正規分布表を使用するためには、正規分布を標準正規分布へ変換する、標準化を行う必要があります。そのイメージを図6に示します。
不良率を求める
数学のテストがありました。生徒全体の平均点は70点、点数のバラつき(標準偏差)は10点で、点数は正規分布に従っているとします。
先生はこう言いました。「60点未満は補習です」。テストの点数は、実施するごとに平均点やバラつきが異なるため、単に「60点」という数値だけでは、その良しあしを判断できません。そこで使うのが「標準化」です。つまり、その点数が平均からどれだけ離れているかを示す必要があります。
Z=(60−70)/10=−1.0
60点は、平均より1つ分(1σ)下の位置にあることを意味します。Z=−1.0以下に該当する人が全体の中でどれくらいいるかは、標準正規分布表で確認します。Z=−1.0のとき、左側の確率は15.9%です。つまり、このテストでは約15.9%の生徒が60点未満で不合格になると予測できます。
この考え方を製造業に置き換えると、次のような対応関係になります(表1)。
テストの話 | 製造の話 | |
---|---|---|
点数のバラつき | 寸法のバラつき | |
不合格ライン60点 | 上限/下限の公差 | |
不合格者の割合を予測 | 不良率を予測 | |
表1 標準正規分布表から不良率を求める |
次回は、実際のモデルから不良率を推測します。(次回へ続く)
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