世界初 窒化炭素をガラス基板上に固定化してCO2からエネルギー物質を生成:研究開発の最前線(2/2 ページ)
三菱電機と東京科学大学は、可視光を吸収する有機半導体である窒化炭素を用いた人工光合成触媒系を平面状に形成および固定化し、CO2からエネルギー物質のギ酸を生成させることに成功した。
ギ酸生成のメカニズムとは?
今回の光触媒パネルは、アセトニトリルとジメチルアセトアミドの混合物や水素供給源のトリエタノールアミン、CO2などから成る反応液内に配置され、波長が380〜450nmの可視光が複合光触媒に照射されるとギ酸を生成する。
具体的には、複合光触媒に形成された高分子状の窒化炭素層が可視光を吸収した後、電子を生じる。発生した電子は酸化チタン層に渡る。続いて、酸化チタン層に結合しているルテニウム錯体へと電子が移動する。ルテニウム錯体は、電子と、反応液中に溶解しているCO2やトリエタノールアミンから供給される水素と反応する。これにより、ルテニウム錯体上で、CO2が還元され、ギ酸が生成される。生成当初のギ酸は、ルテニウム錯体近傍に存在するものの、その後反応液中に溶け出し、混じっていく。
東京科学大学 理学院 化学系 教授の前田和彦氏は「反応液中に溶け出したギ酸の分離では蒸留を活用する予定だ。将来は、ギ酸を分解して水素を発生させる触媒との組み合わせも視野に入れている」と話す。
また、従来の方法では、マグネチックスターラー(磁気撹拌子)などを用いて反応液を撹拌することで、反応液中に混ぜたPCNやルテニウム錯体などの触媒を均一に分散させるとともに、反応物(CO2や水素源)と接触させた上で、触媒に可視光を照射し、反応液中にギ酸を生成していた。そのため、ギ酸の分離では、ろ過装置でPCNやルテニウム錯体などを除去するプロセスが必要だった。
澤中氏は「今回の手法では、ホウケイ酸ガラス基板上に複合光触媒に固定化することで、反応液を撹拌するマグネチックスターラーを不要とした他、ろ過工程も不必要とし、回収コストの削減を実現した」と述べた。
光触媒パネルは反応液中で、400nmの可視光が照射された場合に、触媒に当たった光がギ酸生成に使われた割合(AQY)が2.0%で、触媒反応で得られた生成物のうちギ酸が占める割合である選択率は85%だった。「従来の方法で製造された微粒子分散触媒は反応液中で、400nmの可視光が照射された際に、AQYは2〜6%で、選択率は80%以下だ。そのため、選択率に関しては光触媒パネルのほうが優れている」とコメントした。
両者の役割に関して、三菱電機は、光触媒パネルの多層化や固定化の達成に向けた各実験における条件検討や固定化した人工光触媒の構造、活性の評価を担った。東京科学大学は、光触媒パネルの多層化、固定化の順序、使用材料などの設計/選定や、触媒などの各材料の調製を担当した。
今後両者は、窒化炭素系材料の改良により、さらに長波長の可視光を吸収できる光触媒の開発を目指すとともに、反応速度向上のための研究を進める予定だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
三菱電機が環境向け研究開発を披露 ノウハウなしで静電選別が行える検証機とは?
三菱電機は、兵庫県尼崎市の先端技術総合研究所で「グリーン関連研究開発事例 視察会」を開催し、オペレーションのノウハウなしで静電選別が行える検証機を披露した。使用済み家電由来の混合プラ再資源化で三菱電機の中核 GCSのリサイクル工程とは?
三菱電機では家電由来の混合プラスチックのリサイクルを推進している。このリサイクルの中核を担うのが子会社のグリーンサイクルシステムズだ。グリーンサイクルシステムズに、設立経緯、概要、位置付け、混合プラスチックのリサイクルプロセス、導入しているプラスチック選別技術、今後の展開などについて聞いた。DJ気分で三菱電機のリサイクル技術を学べる展示、ゲームで廃プラ選別技術を体験可能
三菱電機は、都内のイベントスペースで、ゲームなどの体験型アトラクションを通して、同社のリサイクル技術を学べる企画展示を開催している。水を主成分とする世界最高の蓄熱密度を備えた新たな蓄熱材
三菱電機と東京科学大学は、水を主成分とする感温性の高分子ゲルを利用して、30〜60℃の低温の熱を1リットル(l)当たり562キロジュール(kJ)という蓄熱密度で蓄える蓄熱材を開発した。三菱電機がスウェーデンの直流遮断器開発企業を買収、洋上風力発電の対応強化
三菱電機は、直流遮断器の開発を手掛ける、スウェーデンScibreakの全株式を取得する株式譲渡契約を締結した。今回の買収により、Scibreakの技術やノウハウを取り入れ、直流遮断器の早期製品化を目指す。