モノづくりソフトウェアでデジタル赤字を反転へ、「New SDV」が勝ち筋に:車載ソフトウェア(3/3 ページ)
イーソルのユーザーイベント「eSOL Technology Forum 2025」の基調講演に同社 代表取締役社長CEO兼CTOの権藤正樹氏が登壇。本稿では、同講演で権藤氏が語った、日本のモノづくりを担う製造業と関わりの深い組み込みソフトウェアが果たすべき役割や、SDVへの取り組みが進む自動車市場における日本の勝ち筋などについて紹介する。
「中国が最もAUTOSARを使っているということはどういうことか」
これらの収集したデータこそが価値あるソフトウェアを生み出す原動力になる。また、今後モノへの組み込みが進むとみられているAIにとっても、New SDVのようなプラットフォームは必要不可欠だ。権藤氏は「近年は自動車業界でAIDV(AIデファインドビークル)という言葉も出てきているがSDVの上に成り立つものだ。中国でAIDVが注目されているのは、SDVへの取り組みがそれなりに進んでいるからだ」と分析する。
そしてプラットフォームの構築で何より重要なのがエコシステムだ。多くのサードパーティーを呼び込むような仲間作りを成功させるにはオープンスタンダードが欠かせない。しかし、日本はこのオープンスタンダードの標準化を苦手としている。「オープン/クローズ戦略がうまく使えておらず、特にクローズ戦略が弱い。OSS(オープンソースソフトウェア)のほぼ100%は企業のエンジニアが作っているが、これは単に開発に貢献しているのではなく、何を出すのか何を出さないのかを綿密に決めた上でおこなっている。現在の日本ではそのノウハウがないので、標準化団体などで学ぶ必要があるのではないか」(権藤氏)。
制御系車載ソフトウェアの標準化団体として長い歴史を持つAUTOSARは、活動の中心は欧州という認識が強い。しかし、現時点でAUTOSARのメンバーで世界で最も多い国は中国である。権藤氏は「5年前の段階では、中国内のAUTOSARのイベントでAUTOSARのことを議論していた。だが、2025年3月に上海で開催されたAUTOSARのイベントでは、先述したAIDVをはじめ、AUTOSARは当たり前としてその先の話をしている。現在、世界の自動車業界をリードしているのは中国の自動車メーカーだが、その中国が最もAUTOSARを使っているということはどういうことなのかを考えてほしい」と訴える。
その上で、日本が取るべき指針として「標準化やOSSの開発に参加していかなければならないがコアを押さえる必要がある。そのためには標準化やOSSでリーディングプレイヤーにならなければならないし、オープン/クローズ戦略に基づきキープレイヤーのマネタイズを実現しなければ継続性が生まれない」(同氏)とする。
「オールジャパンで手を組まなければ日本の自動車産業は終わる」
自動車業界を中心にモノづくりのソフトウェアを手掛けるイーソルだが、New SDVを実現するにはさらなる進化が必要になる。権藤氏は新社長に就任した後、2025年4月に中期経営計画「eSOL Reborn 2030」を発表している。同中計では、日本のモノづくりソフトウェアベンダーとして進化を目指すとともに、日本国内に残された同じ日本のモノづくりソフトウェアベンダーともしっかり手を握っていく方針を打ち出した。
権藤氏は建物の建築を例に挙げ、仲間づくりが重要なことを強調した。「かつては2階建てだったモノづくりのソフトウェアは、今は50階建てまで規模が巨大になっている。この50階の新たな構造の建物を建てるには、新しいことを恐れない勇気が必要であり、勇気を出すには仲間が必要だ。もし仲間が失敗しても責めるのではなく助ける関係でなければならない。自動車メーカーやティア1サプライヤーなどの顧客や競合も含めて、一つのチームにならなければ、オールジャパンで手を組まなければ日本の自動車産業は終わるだろう。それは日本の産業の終焉(しゅうえん)にもなる」(同氏)。
また、権藤氏は「かつては2階建てだったモノづくりのソフトウェアは安く手早く建てるために木造が良かった。しかし今は50階建ての建物が求められているにもかかわらず、木造で何とか10階建てを作っているような状況だ。もちろん、2階建てでも50階建てでもドアや窓があるように従来のやり方は十分に生かせる。しかし、建物の構造から基礎、作り方は変えなければならない」と述べている。
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