SDVは日本の車載ソフトウェア開発の慣習を変えるチャンスになる:SDVフロントライン(1/3 ページ)
100年に一度の変革期にさらされている日本の自動車業界が厳しい競争を勝ち抜くための原動力になると見られているのがSDVだ。本連載では、自動車産業においてSDVを推進するキーパーソンのインタビューを掲載していく。第2回は、車載ソフトウェア標準化団体であるAUTOSARの日本地域代表を務める後藤正博氏に話を聞いた。
自動車のさまざまな機能をソフトウェアによって定義しようとするSDV(ソフトウェアディファインドビークル)において、車載ソフトウェアの役割がどれほど重要になるのかは語るまでもない。SDVという言葉が出てくるはるか以前、2003年から車載ソフトウェアの標準化団体として活動を続けてきたのがAUTOSARである。
欧州を中心に活動してきたAUTOSARだが、近年は欧州域外での活動を強化すべく各地域にRegional Hubを設立している。そこで今回は、デンソー 技術開発推進部 国際標準渉外室 自動車標準課 技師、担当部長で、AUTOSAR Regional Spokesperson Japan(AUTOSAR日本地域代表)を務める後藤正博氏に、AUTOSARの日本での活動やSDVとの関係性について話を聞いた。
連載「SDVフロントライン」
製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進みつつある中で、トヨタ自動車を率いる豊田章男氏によって印象付けられた「100年に一度の変革期」という言葉に代表される通り、自動車産業も大きな変革の波にさらされている。その変革の波を端的に示す言葉として知られるのがダイムラーが2016年9月のパリモーターショーで提唱した「CASE」(コネクテッド、自動運転、サービス/シェアリング、電動化)だ。そして、このCASEの推進を支える原動力になると見られているのがSDV(ソフトウェアディファインドビークル、ソフトウェア定義型自動車)である。本連載「SDVフロントライン」では、自動車産業においてSDVを推進するキーパーソンのインタビューを掲載していく。
AUTOSARの日本での活動を強化するJapan Hubを立ち上げ
MONOist 2022年4月にAUTOSAR日本地域代表に就任しましたが、これまで車載ソフトウェア関連でどのような活動をしてきたのでしょうか。
後藤氏 私自身の経歴としては、1984年に日本電装(現デンソー)に入社した際に日本自動車部品総合研究所(現SOKEN)に配属され、CANやLINなどの車載ネットワークや分散制御システムの研究開発に従事した。10BASE5のイエローケーブルイーサネットの時代で、HDLC(High-level Data Link Control)を8051CPUで制御したり、ARCNET(Attached Resource Computer NETwork)でネットワークを組んだりしていた。CANの導入が始まったのもこのころだ。
1998年からはデンソーの開発部で通信ソフトウェアの開発を担当していたが、2003年にCANやOSEC/VDXなどの標準化に加わっていたドイツのR&D部隊の所属になった。このころちょうどAUTOSARが立ち上がり、2004年にはデンソーもAUTOSARにプレミアムパートナーとして参加したので、アプリケーションインタフェース開発の関連で活動に参加した。標準化活動との関わりはここから始まっている。
2008年にはいったん日本に戻って電子プラットフォーム開発部に所属し、ネットワーク、車載ソフトウェア、モデルベース設計(MBD)、ISO 26262などの標準化活動に携わった。日本の車載ソフトウェア標準化団体であるJASPARに加入したのもこのころで、電子プラットフォーム開発部では部長を務めた。2016年には再びドイツに戻って、デンソー研究開発センターのマネジメントとして、標準化活動に携わり、2020年末にまた日本に戻って、ISO TC22/SC32の議長を秋山さん(秋山進氏)から引き継ぎ、自動運転技術に関する標準化活動に関わった。
MONOist AUTOSAR日本地域代表としてはどのような活動をしていますか。
後藤氏 従来のAUTOSARの活動は、欧州+英語が中心になっていることが大きな課題だった。2022年からAUTOSAR Open Strategyを推進しており、施策の柱としては、オープンソース化や、派生アプリケーションとなる医療、船舶、航空機などへの展開を行っている。欧州以外の各地域に根付いた活動を強化するのもその一環で、日本に加えて、北米ハブ、中国ハブという3つの地域ハブが同時に立ち上がった。
日本のJapan Hubでは、まずはAUTOSARに関する日本語での発信に注力している。北米ハブは、COVESA(Connected Vehicle Systems Alliance)と連携した活動が中心だ。中国はEV(電気自動車)の開発に注力する中でAUTOSARの採用が大きく進んでおり、中国ハブの活動も活発になっている。地域ハブにはユーザーズグループがあって、AUTOSARのアソシエイトパートナーはそこに参加できる。インドはユーザーズクループが先行してできており、今後それを核にハブが立ち上がるかもしれない。なお、Japan Hubでは、JASPARの活動との兼ね合いもありユーザーズクループは立ち上げていない。
MONOist 各地域ハブで標準化作業を行っているのでしょうか。
後藤氏 AUTOSARの標準化作業が欧州中心で進められていることに変わりはない。メンバーは欧州、日本、北米の3極に分散していて、オンライン会議などで作業を進めている。ただし3極となると、時差の関係もあって全員が時間が合わせづらいことが課題になっている。無理に時間を合わせると、欧州は夕方、日本は深夜、北米は早朝というようになってしまう。WG(ワーキンググループ)の検討テーマに関わるメンバーが、ある地域に多くいる場合は、その地域内である程度話を進めるという対応もある。そういった地域内での横のつながりが、地域ハブやユーザーズグループにつながっている側面もある。そこから、地域ごとのトピックについてはリージョナルWGを作って対応することもある。
実は日本でも2013〜2016年にリージョナルWGを立ち上げたことがあったが、日本国内のAUTOSARに関わるエキスパートを集められるようなテーマ設定をうまくできなかった過去がある。結果としてJASPARのAUTOSAR標準化WGに引き継がれたことを考えると成果がなかったわけではないだろう。
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