「オールイーサネット」の車載ネットワークの実現へ、CANは使わず:車載電子部品(2/2 ページ)
現在の車載ネットワークのアーキテクチャは拡張性が不足し、持続可能ではなくなる。オンセミは、こうした状況において集中型で一元的な通信ネットワークが不可欠だと訴える。
10BASE-T1Sとは
イーサネットは中速/高速の通信には適しているが、車載ネットワークにおける9割の通信は1Mbps以下だ。また、マルチドロップ接続(1本のケーブルから枝分かれして各機器に接続すること)への対応が求められる。
高速通信が要求されるアプリケーションにおいて、イーサネットはポイントツーポイントに限定されており、マルチドロップ接続には対応していない。ポイントツーポイント接続で車内のセンサーやアクチュエーターなど全てのエンドポイントに対応するのは限界があるとし、ボディー系のさまざまな制御までは対応できないのが課題だ。データセンターやインターネットを念頭に置いた開発が行われてきたためだ。また、既存の車載ネットワークの技術ではCSMA/CD(搬送波感知多重アクセス/衝突検出)に対応できていない。
2019年、IEEEが規格として「10BASE-T1S」を策定した。10BASE-T1Sは、低速マルチドロップイーサネットとパフォーマンス向上を実現するソリューションだ。10BASE-T1Sはレガシーな通信プロトコルがサポートしていない同一データラインでの電力供給により、ワイヤハーネスの重量増や複雑化を抑制できる。電圧のターゲットは48Vをダイレクトに受けられるように高耐圧化していく。
オンセミはCAN、LIN、FlexRayのようなマルチドロップ通信で長い実績を持つ。また、10BASE-T1Sの標準規格の策定に当たっては、IEEEとOPEN Allianceで議論をリードしていることも強みだ。
さらに、高電圧のアナログ機能と小規模なデジタル回路を1つの半導体ダイ上に集積するオンセミ独自プロセス技術のBCD65によってイーサネットの競争力を高める。また、プラットフォーム方式であるため、将来的にイーサネットとセンサーなどオンセミの他のコアコンピタンスとなる技術を組み合わせることもできるという。
「オンセミの独自性は、1つのダイで高電圧とスモールスケールデジタルの両方を採用できる点だ。同じようなシステムを構成するには、他社は複数のダイを使う。コスト効果が薄れる。技術的なチャレンジとなるため、設計面に潜在的な問題を抱えることにもなりかねない。堅牢でコスト効果の高いソリューションを実現し、既存の車載ネットワーク技術のコストに近づけていくことができる」(ベルート氏)
コスト面では、「10BASE-T1Sは既にCANと同等レンジのコストになっているがCANの方が若干安いかもしれない。いずれは同等のコストになる」(ベルート氏)という。10BASE-T1Sにより、システム全体のコストはイーサネットに優位性がある。ワイヤハーネスの使用量を削減するだけでなく、電力伝送にも対応したケーブルも使用できるためだ。
オンセミは10BASE-T1S向けにPHY(物理層)、MAC(Media Access Controller)-PHY、RCP(Remote Control Protocol)、PMD(物理媒体依存部)をデバイスのラインアップにそろえ、さまざまな使用事例に対応する。いずれも同じIPに基づいており、今後も10BASE-T1Sの規格に基づいて製品を投入していく。「CANは当面残るが、10BASE-T1SはCAN市場を徐々に侵食するだろう。速いペースではないかもしれないが、10BASE-T1Sが新たな“CAN”になっていく」(ベルート氏)
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