分子レベルで高純度の原料を再生できるアクリルガラス:研究開発の最前線
信州大学は、分子レベルでリサイクル可能な変性アクリルガラスを開発した。減圧加熱で原料を高純度で再生し、アクリルガラスの性能を維持しつつ熱分解性を向上させる技術で、市販のアクリル板にも適用可能だ。
信州大学は2025年6月11日、分子レベルでリサイクルできる、変性アクリルガラスを開発したと発表した。透明度や機械強度といったアクリルガラスとしての性能を損なうことなく、減圧下での加熱によって、原料のメタクリル酸メチル(MMA)を高純度、高収率で再生できる。
開発においては、トリフェニルメチルエステル(トリチルエステル)の熱分解時に発生するラジカルを開始点として、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)の解重合を誘導した。MMA(95mol%)とメタクリル酸トリチル(TMA、5mol%)を共重合したところ、高重合度の変性PMMAが生成された。この変性PMMAはPMMAと同等の透明度を保ちながら、機械強度が向上していた。熱分解性も大幅に改善され、300℃までにほぼ完全に解重合する。
変性PMMAを25℃から270℃まで15分かけて減圧加熱すると、反応容器内の変性PMMAは消失した。液体窒素で冷却したフラスコに容器が接続された状態で、常圧に戻し、フラスコを室温まで暖めると、無色透明で高純度のMMAを回収できた(収率95%)。
この変性PMMAは、PMMAと同様の工業的製法で合成可能。成形や加工のしやすさと樹脂の特性を保持しつつ、低温でのケミカルリサイクルが可能になる。これにより、世界で300万トン(t)以上あるとされるPMMAの需要にケミカルリサイクルという手段で対応できる。
また同技術は、市販のアクリル板にも適用可能だ。市販のアクリル板の側基メチルエステルをトリチルエステルに変換し、減圧加熱することで、MMAを高純度で回収できた(収率92%、アクリルガラス基準で再生率69%)。
廃プラスチックから炭素資源を回収する技術開発が求められる中で、特に分子レベルでのリサイクル技術となるケミカルリサイクルに期待が集まっている。ビニルポリマーは高収率でのモノマー再生が難しいが、例外的にPMMAは加熱による解重合でMMAを再生できる性質を持つ。しかし、解重合に400〜450℃ほどの高温が必要なため、より穏和な条件での解重合技術が求められていた。
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