産業用ネットワークのオープン化の現状と今後:産業用ネットワークのオープン化の歴史(5)(3/3 ページ)
本連載では、産業用ネットワークのオープン化にまつわる歴史について紹介します。今回は、産業用ネットワークのオープン化の現状と今後について考えます。
産業用ネットワークの今後、注目の技術
現在は産業用イーサネットがマーケットでシェアを伸ばしていることを説明しました。それではこれからはどうなるのでしょうか。直近の未来としては、2つの新しい技術に注目したいと思います。
TSN(Time-Sensitive Networking)
IEEEのワーキンググループによりまとめられ、標準のイーサネットにネットワークにつながる機器の時刻の同期、メッセージの時分割、優先度による帯域の保証などの機能を加えます。
ODVA、CC-Link協会、プロフィバス協会、OPC協議会などが通信の物理層とデータリンク層の共通化を目指して作業を進めています。ただし、実現のためにはTSNに対応する通信用CPUが必要になります。
APL(Advanced Physical Layer)
今回の説明はファクトリーオートメーションの産業用ネットワークが主体でしたが、プロセスオートメーションでもイーサネット採用の検討が進んでいます。プロセスオートメーションに求められる2線式伝送(バス給電)、本質安全防爆に対応できる物理層仕様がAPLです。APLに対応した通信用CPUが必要になります。
TSN、APLはイーサネットベースですが、アプリケーションの要求から、私たちが日常で使っているイーサネットをそのまま使うわけではありません。TSN、APLの両方の技術共に、2025年から本格的にマーケットに紹介される予定です。
ユーザー、機器ベンダー、エンジニアリング会社というオートメーションのマーケットからどのように評価されていくかが気になります。
最後に
「工場の中で稼働している多くの機器を簡単に接続し、データ/情報を自由にやりとりしたい」という1980年代のMAPの願いはまだ完全には実現されていないかもしれません。
しかし、産業用ネットワークは民生用の技術の進化にも促され、着実に進展してきました。確かに以前と比べて、産業用ネットワークは異なるベンダーの機器でも、接続しやすくなり、データ/情報をより自由にやりとりできるようになり、接続コストも下がってきています。
産業用ネットワークのオープン化は、オートメーションの変化の歴史でもあります。将来は汎用ネットワーク技術での「オープン化」がもっと進むかもしれません。あるいは、まだ知らない技術が採用されていくかもしれません。これからも産業用ネットワークがどのような形で発展するか期待を持って見ていきたいと思います。
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