東風日産のEV「N7」の受注が好調、現地主導で「古臭さ」から脱却:電動化(2/2 ページ)
日産自動車は中国で発売したセダンタイプのEV「N7」が発売から1カ月で1万7215台を受注したと発表した。N7は日産の中国の合弁会社である東風日産が発売した。中国では2027年夏までに9車種の新エネルギー車を発売する計画で、N7はその第一弾となる。
中国の市場に流れる“川”を超える
呉氏によると、これまで中国のEV市場は10万元(約198万円)以下の低価格帯と、20万元(約396万円)以上の高価格帯がけん引してきた。高価格帯は公用車など政府からの需要が中心で、低価格帯は上汽通用五菱汽車の「宏光MINI」のような非常に安価なモデルに取り込まれた。その間の10万〜20万元の価格帯は一部の配車サービス向け車両にとどまっていたが、EVの静粛性や運転のしやすさ、トータルコストの安さなどの良さが中間所得層にも伝わり、2021年後半ごろから市場規模が拡大してきた。
呉氏は「中国のEV市場にはブランドイメージを分ける川がある」と説明する。エンジン車から続く伝統的なイメージの自動車メーカーと、NEVの先進的なイメージの自動車メーカーを隔てる境界線だ。伝統的なイメージは古臭さにもつながっており、歴史の長い日系自動車メーカーとの現地合弁は、その“川”を超えなければならない。N7はその川を超え、先進的なイメージを打ち出すモデルと位置付けられている。
今後も中国では10万〜20万元の価格帯でラインアップを拡充する。EVだけでなくPHEV(プラグインハイブリッド車)やレンジエクステンダーEVも用意し、SUVもラインアップに加える。将来的には20万元以上の価格帯も狙っていく。
中国の新車市場では、日米欧など外資系自動車メーカーの現地合弁のシェアが、地場資本の自動車メーカーや新興メーカーに奪われる傾向が続いている。呉氏は「外資系自動車メーカーによる中国での自動車産業の歴史が30年とすると、これらの伝統的なブランドの保有台数は2億台と考えられる。7〜8年でクルマを買い替えるなら、年間500万〜600万台の需要になったはずだ。ただ、彼らがNEVを購入したいときに、伝統的な自動車メーカーからちゃんとしたオファーがなかったため、ローカルメーカーや新興メーカーに移っていったのではないか」と振り返る。
「中国の自動車業界にはローカルブランド、ローカルスタートアップ、外資との合弁の3つの勢力があるが、ユーザーの中ではこれらの壁がだんだん薄れているように感じる。その中で、快適性や運転性能、デザイン、ブランドの安心感など自分のニーズに合うクルマを選んでいる。こうしたニーズを真摯に見ながらこれからクルマを作っていく」(呉氏)
伝統的な自動車メーカーに対する消費者の信頼がなくなったわけではない。東風日産もブランド自体は信頼されているとみている。「NEVについて調査するとBYDをはじめとするローカルブランドの名前が挙がる。外資の伝統的な自動車メーカーからNEVのオファーがそもそもないからだ。N7の滑り出しが好調なのは、期待値に合った商品を出せたことが大きな要因なのではないか」(呉氏)。
中国で進める現地化
中国では2023年ごろからEVの値引き合戦が続いている。不当な値下げ合戦はやめるよう政府からも通達が出ており、競合他社の値引きの動きだけでなく政府の方針も見ながら値段や価値を設定していかなければならない状況だという。呉氏は「値下げ競争にはある程度追従するが、価値の提供が重要だ。コストや値段をユーザーの手の届くところにセットすることは必要だが、他社と差別化できる価値の提供が一番の課題だ」とコメントした。
日産と東風日産は、「In China, For China, To Global(中国で、中国のために、グローバルに)」をテーマに現地化を推進してきた。N7もグローバルサプライチェーンではなく中国ローカルのサプライチェーンをフル活用したのがコストコントロールに貢献した。
東風日産では、商品開発を現地で完結できる体制をとっている。デザインやコンセプトは日産本社の承認が必要だが、それ以外は企画やデザイン、製造、販売まで現地のチームで完結させる。これにより、現地のニーズに対する理解が正確になり、意思決定のスピードも速くなる。「いろいろな情報が日々入ってくるが、ステップバイステップで対応するのではなく、いいものはすぐに取り入れ、足りないところはすぐに直すように現地でバンバン決めている」と呉氏は現地開発の強みを説明した。
また、開発期間を24カ月と短く設定するなど、効率的な開発にも注力している。開発期間の短縮や、ベンチマークの検証などによってコストを下げていくのが基本的な考えだ。「中国で戦っていくには必要な競争力なので、今後も強化していく」(呉氏)。
中国で開発した車両や技術をグローバル展開することは選択肢としてあるが、N7の中国から他の市場への輸出は未定だという。中国からの輸出は政策の影響を受けるが、開発のスピードアップやそのプロセス、ユーザーに対する理解などの知見は「日産のグローバルな取り組みとしても新しい視点を提供できるのではないか」(呉氏)。また、中国で知能化技術の開発が進んでいることを受けて、関連するSDV(ソフトウェアデファインドビークル)にどう取り組むか、中国と日本と密に連絡を取りながら情報をシェアしているという。
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