日産がバッテリーセルのSOH予測誤差を34%低減、開発効率化へ:人とくるまのテクノロジー展2025
日産自動車は「人とくるまのテクノロジー展 2025 YOKOHAMA」において、電池のSOHを高精度に予測する機械学習モデルを開発したと発表した。
日産自動車は「人とくるまのテクノロジー展 2025 YOKOHAMA」(2025年5月21〜23日、パシフィコ横浜)において、電池のSOH(State of Health、容量劣化状態)を高精度に予測する機械学習モデルを開発したと発表した。マイクロソフトリサーチとの共同開発だ。従来の予測手法と比べて誤差を34%低減できるようになった。
バッテリーの内部で起こる反応は複雑で、反応を定式化して組み込む物理モデルだけでSOHを高精度に予測することは困難だったが、精度を高めたこの予測技術により、EV(電気自動車)向けの電池開発を加速させる。また、EVにSOH予測技術を搭載して、現在の使い方での電池の5年後の劣化や、劣化しないための使い方などをユーザーに提案する。
発表した技術は、バッテリー内部の物理現象への理解を基に、正極にリチウムイオンが出入りするときに起きる結晶構造変化に着目した。ある電圧を境に材料が膨張/収縮し、セル内の応力が高まることで微細なヒビが入り、これが劣化の要因の1つとなるためだ。このときの電圧や容量を特徴量として、SOHを予測するモデルを開発し、バッテリーの初期の放電カーブからSOHを高精度に予測できることが分かった。
まずはEV向け駆動用バッテリーのセルの開発にSOH予測を取り入れる。現在はセルの劣化を評価するには充放電を繰り返す試験が必要だ。半年から10カ月かけて充放電を繰り返す(1カ月で100回の充放電となる)。この試験で結果が思わしくない場合、大きな手戻りが発生する。
発表した技術は50回目の充放電の時点での放電カーブから200回の充放電での劣化状態を高精度に予測でき、試験期間の短縮に貢献する。現時点で材料ごとの特性を反映できているため、今後材料を変更した際も同じアプローチを取れば精度が期待できるとしている。また、全固体電池の開発にも活用できる見込みだ。
SOHの診断やその後の劣化予測は、EVが中古車として流通する際の価格適正化や、バッテリーの使用範囲の最適化による寿命の延長などに貢献する。また、SOHが一定水準まで低下する時期を予測することは、バッテリーの寿命のリアルタイム予測や、新車開発の効率化にも寄与する。
今後の課題は、車両に搭載されるバッテリーの劣化予測への対応だ。現在の劣化予測は定常的な充放電の繰り返しを前提にしているが、EVとしては使い方によって充放電の回数が異なり、地域や季節ごとに気温も異なるため予測が難しい。それをSOH予測にどう反映させるかがテーマとなる。
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