リチウムイオン電池を長持ちさせたいときに気を付けること:今こそ知りたい電池のあれこれ(8)(1/3 ページ)
今回は電池の寿命や劣化に関するあれこれについて、電池評価に携わる立場からの所見をまとめていきたいと思います。なお、昨今のスマートフォンや電気自動車(EV)などに使用されている電池の多くは「リチウムイオン電池」であるため、本稿はその前提で話を進めていきます。
インターネット上には電池に関するさまざまな情報が公開されています。その中でもよく見かける話題の1つは「電池の寿命」に関するものです。
電池の寿命を伸ばす方法はないのか。充電のやり方で気を付けるのはどんな点か……今回はそんな電池の寿命や劣化に関するあれこれについて、電池評価に携わる立場からの所見をまとめていきたいと思います。なお、昨今のスマートフォンや電気自動車(EV)などに使用されている電池の多くは「リチウムイオン電池」であるため、本稿はその前提で話を進めていきます。
電池を劣化させる2つの要因
電池の劣化は大きく2つ、「通電劣化」と「経時劣化」に分けられます。
電池を日常的に使用して充電・放電を繰り返すことで進行するのが「通電劣化」、特に電池を使用せずにただ置いているだけでも時間経過とともに進行するのが「経時劣化」です。電池の中ではこの2つの劣化が同時並行で進行しています。
最近はSNSなどで「EVは走行○○kmで電池劣化○○%」といったコメントを目にすることも多くなってきましたが、こういった表現には注意が必要です。たとえ同じ走行距離であっても、どんな使い方による「通電劣化」をしたのか、どれだけの時間や温度環境にさらされて「経時劣化」したのかによって、電池の状態は変わります。
この表現からはその走行距離を達成するまでに電池がどのような劣化要因にさらされたのかという履歴を読み取ることができません。また、電池劣化の%値についても、一般家庭で充電した際の容量やそもそも電池容量ではなくクルマが表示する推定走行距離から算出したものなど、データの信頼性に難がある場合が多々見受けられます。こういった情報はあくまでも参考程度にとどめ、正確な電池の劣化状態は各メーカーや評価施設が適切な手法で測定した結果から判断することをお勧めします。
今回はよく聞く電池の使い方や疑問の数々を例に挙げながら、順に解説していきたいと思います。
熱と寿命
電池に熱がかかると寿命が縮む? 答えは(〇)[クリックで答えを表示]
電池の寿命低下、すなわち劣化は電池内部で起こる化学反応によるものです。一般的に化学反応は温度が高いほど、その反応速度が上がるため、電池においても使用環境の温度が高いほど、劣化が早く進行してしまいます。
そのため、炎天下で酷使するなど電池の温度を高くするような使用方法は控えた方がいいでしょう。
最近のスマートフォンはワイヤレス充電が可能となっていることも多いですが、内蔵コイルによる発熱の影響を考えると、充電状態を確認して小まめに充電器から外すことをお勧めします。
単純に冷却すればいいわけではない
電池を冷やせば劣化を抑えられる? 答えは(△)[クリックで答えを表示]
先述の通り、電池の劣化に結び付く化学反応は高温条件で加速します。そのため、電池が過度に発熱しないように適切な温度管理を施すことができれば劣化を抑制することが可能です。一部のEVには電池発熱時に備えて冷却装置が搭載されているものもあります。しかし、発熱した電池搭載製品を急激に冷やすと、結露などの要因で別の不具合が生じる可能性もあるので、一般使用環境においてはやみくもに冷やすべきではありません。あらかじめ冷却機構が組み込まれている製品ではない場合、説明書に記載されている注意事項に従い、負荷を減らして自然に冷却させることをお勧めします。
気温の低さと劣化
寒いところだと普段より電池の持ちが悪い気がする。低温で劣化している? 答えは(△)[クリックで答えを表示]
確かに低温環境下では電池の持ちが悪く、劣化したように感じることもありますが、この容量減少は一時的なものです。電池が冷えていると内部抵抗が高くなるため、本来の電池容量を出し切ることができません。そのため、実用上はまるで電池が劣化したように見えますが、室温に戻せば元通りの電池容量が発揮されます。
ただし、そのような低温環境下では「充電」の仕方に注意をした方がよいでしょう。冷えた電池を充電すると、第2回コラムで紹介した「金属析出」が起こりやすくなります。金属析出は電池寿命の低下や内部短絡の要因にもなり得ます。寒いところでの充電、特に大電流による急速充電は避けた方が、電池へのダメージを軽減できるかと思います。
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