国産リン酸鉄リチウムイオン電池で安全な定置用電源を、新製品で攻勢:脱炭素(2/2 ページ)
リン酸鉄リチウムイオン電池を開発、生産するエリーパワーは、マンションや工場、倉庫、事務所など大型施設に設置する産業用蓄電池の新製品「Power Storager GX」に関する説明会を開催した。
安全な国産蓄電池を
敷地内に設置する定置用蓄電池では、建屋の火災につながりかねない発火は許されないため、高い安全性が求められる。
電解液が火気厳禁の危険物に該当するため、大型の蓄電池を設置するには消防署への届け出が必要だエリーパワーの蓄電池はセルが消防設備としての型式認証を受けているため、設置後の届け出がスムーズになるという。また、セルだけでなくシステムとしてもプロパゲーション(耐類焼)試験の認証を取得した実績がある。
また、経済安全保障の観点ではリチウムイオン電池は重要物資の1つだ。経済産業省などがまとめた「経済安全保障に関する産業・技術基盤強化アクションプラン」において、三元系のリチウムイオン電池は日本が技術優位性を持つ領域と位置付けられている。
一方、リン酸鉄リチウムイオン電池は、日本だけが技術的優位性を持つわけではなく、国際競争の中で難しい立ち位置にある。
エリーパワーは、2010年から量産してきた定置用リン酸鉄リチウムイオン電池において、リコールや重大事故に至っていない安全面の実績と、技術や生産で中国に依存せず日本国内でまかなえることを強みに普及に取り組む。近年は安全性の強みを生かして二輪車の始動用など新しい領域にもリン酸鉄リチウムイオン電池を供給している。
エリーパワーは神奈川県川崎市に生産拠点と開発拠点を持つ。神奈川県内に協力会社もいるため、国産にとどまらず“メイドイン神奈川”だとしている。リサイクルや廃棄のスキームも確立しているという。
球場でも導入実績
Power Storager GXは、蓄電池本体だけでなくさまざまな必要機器や周辺システムも提供する。パワーコンディショナー、太陽光発電を直流で蓄電するDCリンクPVコンバーターやエネルギーマネジメントシステム、計測監視や稼働状況の見える化、UPSとして使うための自立運転切替回路、絶縁トランスがオールインワンになっている。電力消費量と発電量を予測して自家消費を最適化する機能も備える。導入前にCO2削減量や経済効果などをシミュレーションすることも可能だ。
エリーパワーの産業用蓄電池システムはさまざまな場所で導入実績がある。プロ野球の阪神タイガースファームの本拠地「ゼロカーボンベースボールパーク」(兵庫県尼崎市)では、太陽光発電の電力で球場を運営する「ゼロカーボンナイター」を開催する。
高齢者向けホームを運営するベネッセスタイルケアでも、新規開設する施設で産業用蓄電池システムを導入し、災害時でもホームを運営できるようにする。
コスモエネルギーホールディングスのコスモ石油中央研究所(埼玉県幸手市)にも導入された。コスモエネルギーはデマンドレスポンスの実証実験に利用している。
Power Storager GXは出力容量300kWまで対応するが、10k〜20kWの小容量タイプも用意しており、高出力が要求されない施設でも設置できる。
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