スズキの「バッテリーリーン」な軽トラEV、既製品の活用で検証急ぐ:人とくるまのテクノロジー展2025
スズキは「人とくるまのテクノロジー展 2025 YOKOHAMA」において、軽トラック「キャリイ」をベースにしたEVを展示した。
スズキは「人とくるまのテクノロジー展 2025 YOKOHAMA」(2025年5月21〜23日、パシフィコ横浜)において、軽トラック「キャリイ」をベースにしたEV(電気自動車)を展示した。駆動用バッテリーとして、エリーパワー製のリン酸鉄リチウムイオン電池を搭載した。太陽光発電設備を持つ農家を対象に貸し出す実証実験を2025年度中に開始する。
エリーパワー製のリン酸鉄リチウムイオン電池は定置用として量産されている。株主の大和ハウス工業とともに、住宅向けの定置用やキャスターで移動できる可搬型の蓄電池の普及に取り組んできた。
スズキは、定置用としての高い安全性の実績や、国産のリン酸鉄リチウムイオン電池であることを評価した。一般に定置用と車載用では要求性能が異なるが、エリーパワーのセルは自動車向けとしても十分な出力を持っていると判断した。また、クルマを停めている時間に太陽光発電による電力をためる蓄電池としても活用してもらうため、定置用としての量産実績も採用の決め手となった。
定置用のセルを採用したのは、軽トラックのEV化で必要な走行距離を迅速に検証するためだ。「車載用のバッテリーを新しく開発するよりは、使える既存品を使ってやってみようと決めた。自動車としての安全性を試験で確認した上で貸し出す」(スズキの説明員)。
キャリイベースのEVは合計7台試作する。1台は展示や試験など向けで、6台を実証実験に協力する農家に貸し出す。
スズキは、使用状況を踏まえて過剰にバッテリーを搭載しない「バッテリーリーン」な電動車を展開する戦略だ。スズキが調べたキャリイの仕事での主な用途は、田畑への往復、農作物や農機具の運搬が過半数で、他の軽自動車ユーザーと比べても1回の走行距離は短い。また、農業のユーザーは駐車時間が長いため、蓄電池として使える時間も十分に確保できる。実証実験を通じて、太陽光発電も含めたエネルギー効率がベストな利用方法を探る。
2030年にモビリティと定置用の共通セルを実用化
エリーパワーの創業者である代表取締役会長兼CEOの吉田博一氏は、定置用とモビリティ用で共用可能なリチウムイオン電池の実用化を目指す産学連携プロジェクト「エルスクエアプロジェクト」などを経て、慶応義塾大学発のベンチャー企業としてエリーパワーを立ち上げた。定置用のセルを車載用としても使うのは、当初の理念に立ち返った取り組みともいえる。
エリーパワーでは現在、神奈川県川崎市の工場で可搬型や住宅向け、集合住宅向け、産業向けなどをカバーする定置用のセル「HY-L」の他、二輪車の始動用となる高出力型のセル「HY-P」を生産している。スズキが筆頭株主になってからは、定置用とモビリティ用の共通セル「HY-K」の開発も進めており、2030年の実用化と量産を目指す。
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