何もない空中に多彩な触感を創出する超音波技術を開発、デバイス装着も不要:組み込み開発ニュース
NTTと東京大学は、デバイスの装着無しで空中にリアルな触感を提示する超音波技術を開発した。超音波を皮膚に集束させて5Hzで回転させる刺激と、30Hz、200Hzの超音波刺激を合成して多彩な触り心地を創出する。
日本電信電話(NTT)は2025年5月13日、デバイスの装着無しで空中にさまざまな力強い触感を提示する、超音波技術を開発したと発表した。東京大学との共同研究による成果だ。
超音波を皮膚に集束させると感じられる0.01N程度の力は、焦点を5Hzで回転させると20倍近く強度が上がることが知られている。また、回転の際に局所的に5Hzで皮膚が振動すること、皮膚の1点に5Hzの振動を与えることで力が生起することも判明している。しかし、これまでの研究では、皮膚で感じる力を増強する要因が「5Hzの回転」か「5Hzの皮膚振動」なのかは解明されていなかった。
研究グループは、どちらが要因かを探るべく、皮膚上で一定強度の超音波焦点の位置を5Hzで回転させた場合と、1点に対して5Hz、10Hzの振動を与えた場合の刺激を比較した。実験の結果、5Hzの回転刺激の方が、5Hzの振動刺激よりも6倍強いことが分かった。
また、人の触覚受容器が敏感に反応する5Hz、30Hz、200Hzの超音波刺激を合成して振動を制御することで、さまざまな触感を生み出す「超音波触感シンセサイザ」を考案した。
物体に触れている感覚は、前述の研究で得られた、強い力を生み出す5Hzの回転刺激を提示して再現する。物体の表面をなでたときの感覚は、振動を30Hz、200Hzの合成で変調して再現する。これにより、つるつる、さらさら、ざらざらなど多彩な触感を調整できるようになった。
研究グループは同成果を基に、デバイス無しでリアルな触感を再現できる触覚インタフェースやXR体験などでの触覚コンテンツの開発を目指す。また、人の触感の忠実な再現や、脳が触感を知覚する仕組みの解明を進めていく。
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