誰も教えてくれない設計NGあるある【モーター編】:設備設計現場のあるあるトラブルとその解決策(11)(3/3 ページ)
連載「設備設計現場のあるあるトラブルとその解決策」では、設備設計の現場でよくあるトラブル事例などを紹介し、その解決アプローチを解説する。連載第11回はFA業界の主役部品の一つである「モーター」に焦点を当てた、「誰も教えてくれない設計NGあるある【モーター編】」をお届けする。
モーターカバーに関するNG
機械にモーターを採用する際には、回転部への巻き込まれ防止といった安全対策や防塵(じん)/防水対策として、「モーターカバー」を取り付けることがよくあります。
カバーの設計と聞くと、「単にモーターを板金部品で覆えばいいだけでしょ?」と考えがちですが、実際はそう単純ではありません。
というのも、モーターを密閉し過ぎると、内部温度が過度に上昇する恐れがあるためです(図6)。
モーターは電気エネルギーを回転エネルギーに変換する際に発熱しますが、通常はモーター本体が空冷されることで、正常に運転し続けることができます。しかし、冷却が不十分な状態で内部が高温状態にさらされ続けると、
- モーターの効率低下
- 絶縁材料の劣化による絶縁不良
- サーマルリレーのトリップによるモーター停止
- モーターおよび内蔵ベアリングの寿命低下
などの不具合を引き起こす可能性があります。
従って、モーターカバーの構造は「必要最低限だけ密閉する」あるいは「『パンチングメタル』などで通気性を確保する」といった工夫が重要です(図7)。
モーターの発熱量はトルクの大きさに依存します。そのため、以下の点にも留意する必要があります。
- 定格トルク以上のトルクで長時間運転させるようなモーターの使い方をしていないか
- コンベヤーへのワークのかみ込みなど、モーターに過負荷がかかりそうな状況への対策を施しているか
加えて、機械の運転中はモーターカバー自体が高温になる場合もあるため、作業者が不用意に触れて火傷を負わないよう、安全対策を施すことも忘れないようにしましょう。 (次回へ続く)
今回の解説のポイント
Q: モーターを使った機械設計で注意すべきことは?
A: モーターの内部にはモーター軸を支持するためのベアリング(軸受)が内蔵されており、大きな引張力/圧縮力/曲げ応力が加わると故障の原因になる。そのため、負荷軸に別のベアリングを設けるなどの配慮が必要である。
Q: モーター軸と負荷軸の正しい締結方法は?
A: モーター軸の形状に応じた締結方式を選ぶ必要がある。クランプ締結やメカロックを用いた軸締結を採用する場合には、モーター軸は丸形を選定するのが望ましい。キー溝加工されたモーター軸を使用する場合はキーとキー溝付き部品を、Dカット加工されたモーター軸を使う場合はセットスクリュー(いもねじ)を用いた締結方式が一般的である。
Q: モーターカバーの設計で注意すべきことは?
A: 密閉し過ぎるとモーター内部の温度が上昇し、絶縁不良や寿命低下を招く。通気性のある構造(例:パンチングメタル)や安全対策を講じ、冷却と作業者保護を両立させることが重要である。
筆者プロフィール:
りびぃ
「ものづくりのススメ」サイト運営者
2015年、大手設備メーカーの機械設計職に従事。2020年にベンチャーの設備メーカーで機械設計職に従事するとともに、同年から副業として機械設計のための学習ブログ「ものづくりのススメ」の運営をスタートさせる。2022年から機械設計会社で設計職を担当している。
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