シミュレーションの力でSDV時代の自動車開発を加速するAnsys:人とくるまのテクノロジー展2025(2/2 ページ)
アンシス・ジャパンは「未来のモビリティ開発を加速させるAnsysのAI対応シミュレーションと革新的なデジタルツイン構築に向けた取り組み」と題し、記者説明会を開催した。
高度化する自動車開発と新たなシミュレーション要求
電動車(EV)の開発に目を向けると、新たなパワートレインやバッテリー管理システムの実装により、従来とは異なるアーキテクチャが求められている。ナイル氏は、「モーターやバッテリー性能、熱/電気的特性など、従来の自動車開発では必要のなかった新たなシミュレーションに対する要求が強まっている」と指摘する。
加えて、ADAS(先進運転支援システム)や自動運転技術の進展に伴い、LiDAR(Light Detection and Ranging:ライダー)、カメラ、レーダーなどのセンサー群を統合した「システム」レベル、さらには「システムオブシステムズ」レベルでのシミュレーションが必要とされている。
ナイル氏は「車両開発が高度化する中、コンポーネントレベルからシステム、さらにはシステムオブシステムズのレベルまで、階層的なシミュレーションを確実に実施する必要がある。シミュレーションは今や“バーチャルプロトタイピング”として不可欠であり、エコシステム全体での連携の重要性がかつてないほど高まっている」と強調する。
Ansysの強みは、構造、流体、熱、電気といった複数の物理現象の複雑な相互作用を扱えるマルチフィジックス解析に加え、異なるスケールの現象に対応可能なマルチスケール解析にある。ナイル氏は「自動車開発では、トランジスタレベルのナノメートルスケールから車載システム全体のメートルスケールまで、広範なスケールでの対応が求められる」と述べる。
またナイル氏は、現在15件以上が進行中だというNVIDIAとの共同プロジェクトの一例として、Ansysの物理ベースソルバーと、NVIDIAの3D仮想コラボレーションプラットフォーム「Omniverse」との統合について紹介した。「この統合により、リアルタイムに近い可視化と解析が可能になった。現在、5G/6G通信を前提としたスマート&コネクテッドカーのシナリオ設計にも応用されている」(ナイル氏)という。
「人」と「プロセス」も重要
説明会の締めくくりとして、ナイル氏は「現代の製品開発においては、マルチフィジックスおよびマルチスケールへの対応が不可欠であり、バーチャルプロトタイピングの活用によって、迅速な市場投入と高度な顧客要求への対応が求められている」と述べた。
そして、「技術」のみならず、「人」と「プロセス」も極めて重要な要素だとし、ナイル氏は「いかに優れたツールを導入しても、チームが機械、電気、熱といった領域ごとに分断されていては、その効果を十分に発揮できない。業務プロセス全体の見直しに加え、人材育成や組織変革を同時に進める必要がある」と訴えた。
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