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米国「MOBI/CESMII」と中国「可信数据空間」、米中両国のデータ共有圏の現状は加速するデータ共有圏と日本へのインパクト(7)(3/6 ページ)

欧州を中心にデータ共有圏の動向や日本へのインパクトについて解説する本連載。第7回は、米国の「MOBI/CESMII」と中国の「可信数据空間」など、米中両国の取り組みを紹介する。

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中国発データ共有圏「可信数据空間」の衝撃

 続いて中国の取り組みについて触れたい。中国は、2023年に国家数据局(国家データ局)が設立され、国を挙げてデータを活用した産業競争力の強化を図っている。データ要素3カ年行動計画や、100以上のデータ共有圏の急速な立ち上げが掲げられている可信数据空間(Trusted Data space)の展開に加えて、欧州のデータ共有圏の取り組みともIDSA(International Data Space)のHubを2カ所設立するとともに、HaierやHuaweiなどが積極的に欧州とも連携したデータ共有圏の取り組みを実施している。

 データ連携の対象としては、中国国内企業のみならず、東南アジア含め新興国も対象になってくることが想定される。日本としては、東南アジアはじめアジアのデータエコシステムやデータサプライチェーンを形成していく上でも中国の動向は注視する必要があるだろう。

IDSA Hubなど欧州との連携、Huawei/Haierなどの活動

 まず中国における欧州データ共有圏との連携について触れたい。これまでの自動車やロボット技術でもそうであったように、中国は欧州をはじめとする先端の地域/企業との連携や活用を徹底的に行いノウハウを蓄積する。その知見を基に自国としての展開や、自国産業の競争力強化を急速に行ってきている。共有圏においても同様に、初期のタイミングは欧州との密接な連携を実施し、欧州の取り組みにHuaweiや、Haierをはじめ参画し取り組みを進めるとともに、IDSAのHubの設立などを行いノウハウ/知見を蓄積している。

  • 欧州との連携の取り組み例
    1. 2カ所のIDSA Hubの設置((1)中国未来インターネットエンジニアリングセンター(CFIEC)によるIDSA Competence Center、(2)上海交通大学(SJTU)によるIDSA Research Lab)
    2. Haierの取り組み(GAIA-Xのアーキテクチャを活用したHaier海外工場の洗濯機データを活用した衣類洗浄プロセス最適化プロジェクトを実施)
    3. Huaweiの取り組み(欧州と中国企業でのデータ連携を行うデータ共有圏環境であるExchange Data Space(Boot-X)の展開)

「データ要素×」3カ年行動計画

 欧州との連携を図り知見やノウハウの蓄積を図るとともに、同時並行で中国独自のデータ戦略やデータ共有圏の展開を急速に進めている。国家データ局をはじめ複数組織が共同で「『データ要素×』三年行動計画」(2024〜2026年)を発表している。データ資源が急速に求められる中で、「データ供給の質が低い」「データ流通が円滑でない」「データの活用不足」といった課題が存在する。その課題を解決し、データによる価値の倍増効果を中国の新たな成長エンジンにするためのロードマップである。以下の5つの重大項目で構成されている。

  1. データ基盤制度の整備(データ権利の整備、データ資源所有権、データ加工使用権、データ製品運用権など)
  2. データ流通インフラの構築(後述するデータ共有圏「可信数据空間」など)
  3. データ要素の価格形成メカニズムの形成(需給に基づくデータ取引市場における公正な価格形成、データ資産を会計処理できる制度の整備など)
  4. データ要素市場の監督制度(データセキュリティ法や個人情報保護法など既存の法制度を実施しつつ、データ安全ガバナンス体系を構築するなど)
  5. データ要素の産業実装(具体的なシナリオを定義し各産業でモデルケースを創出し、300以上のデータ活用モデルケースを生む)

 同行動計画のポイントは、2.に示したデータ流通インフラ構築の取り組みとなる「可信数据空間(Trusted Data space)」とともに、5.にあるような具体的な産業実装の計画だろう。12の重点分野においてデータ活用を通じた具体的なビジョンやユースケースが示されている。

 データ活用やデータ共有圏の議論においては、抽象的な議論にとどまってしまい推進が進まないことが起こりがちである。その観点からも具体的なビジョンやユースケースを示し、具体的に検討が進みやすい状況を作っていることは日本においても参考とすべきだろう。

 本記事の5ページ目で、同行動計画で示された各領域におけるデータ活用/連携を通じたビジョンの事例を紹介している。製造分野では、データ連携を通じてジェネレーティブデザイン(設計の自動化)を実現していくことも掲げられており、AI(人工知能)時代における新たな競争力の蓄積も見据えたビジョンとなっている点は注視が必要だ。ジェネレーティブデザインや生成AI(言語モデル開発やRAG(検索拡張生成)ソリューション開発)では、学習/参照データが肝であり、この点が横断的なツール開発においてはボトルネックとなりがちである。

⇒「『データ要素×』3カ年行動計画で示された各領域におけるビジョンの事例はこちら

急速に進む「可信数据空間」の展開

 加えて国家データ局は2024年に、データ共有圏である可信数据空間について、2024〜2028年の5年間のロードマップを発表している。2028年までに100以上の信頼できるデータ空間を構築し、全国一体化データ市場を支えるネットワークを形成することを掲げている。(1)企業向け、(2)業界(産業)向け、(3)都市(地域)向け、(4)パーソナルデータ向け、(5)クロスボーダー(国境を越えた)の5つの領域でのデータ共有圏構築を急速に進める計画だ。

 この国家データ局の発表を踏まえて、中国全土でデータ共有圏を実装する動きも進んでいる。可信数据空間は国家データ局の主導の下で、国家発改委や工業情報化部(MIIT)、国家網信弁など関連省庁、各地方政府の大数据局(ビッグデータ局)や数据管理部門、中国情報通信研究院(CAICT)や各業界団体が連携する。

中国における中央/地方でのデータ共有圏構築の取り組み例

  • 国家試点プロジェクト(2025年〜)
    • 国家データ局は2025年から2年間の試点プログラムを開始し、企業型/業界型/都市型それぞれでモデルケースを育成
    • 応募/採択されたプロジェクトは中央からの支援を受け、成果の横展開が図られる
  • 江蘇省 50産業チェーン空間計画
    • 江蘇省データ局は省内50の重点産業チェーンごとにデータ空間を構築する計画を発表
    • 製造業が盛んな同省の特徴を生かし、自動車、電子、化学、繊維など各分野で企業や研究機関を巻き込んだデータ共有基盤を整備
  • 北京/上海など大都市圏での取り組み
    • 北京市はデータ基盤制度先行区に指定され首都圏でのデータ空間実証が進む。2024年末には北京経済技術開発区(亦荘)にて「空天(宇宙航空)データ空間」が国内初めて稼働開始し、宇宙産業データの集積/加工/流通を支える運営センターが開設
    • 上海市はデータ取引所を中心に、金融やヘルスケア分野のデータ空間構築を推進(例:上海データ取引所によるピロリ菌データ共有圏など)

 本記事の6ページ目で可信数据空間のユースケースをまとめている。中国として100のデータ共有圏事例の構築を掲げており、幅広い業界/企業/地域において急速にデータ共有圏の検討、実証が進んでいる。

⇒「可信数据空間」のユースケースはこちら



 中国が産業横断で束となって付加価値の高い学習データを提供することにより、例えば自動車や家電などの最終製品を含むジェネレーティブデザインツールなどを世界に先駆けて展開する可能性は十分にあり得る。一方、日本ではデータ共有圏の重要性が示されているものの、欧州のバッテリーパスポート対応などを除くユースケース開発においては民間側の感度が十分に高まっていない状況である。

 アジアでのデータサプライチェーンやエコシステム形成において、重要なベンチマーク先である中国において、ここまでの急速な立ち上がりを見せていることを十分に注視していくべきだ。日本としても、これまで以上に危機感を持ってデータ共有圏の検討、推進を行っていく必要があるのではないだろうか。

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