PLMこそ日本の製造業に必要な理由――プロセスをコントロールしろ!:ものづくり太郎のPLM講座(1)(3/3 ページ)
「すり合わせ」や「現場力」が強いとされる日本の製造業だが、設計と製造、調達などが分断されており、人手による多大なすり合わせ作業が発生している。本連載では、ものづくりYouTuberで製造業に深い知見を持つブーステック 永井夏男(ものづくり太郎)氏が、この分断を解決するPLMの必要性や導入方法について紹介する。初回となる今回はPLMの必要性について解説する。
なぜ日本の製造業にPLMが必要なのか
今の日本は事後処理の会計システムを中心にオペレーションが回っており、四半期ベースごとの曖昧な情報しか分からず、製品の製造にかかったコストや必要な装置数、つくりやすさなどの情報が分からない。厳密には、設計者が利用しているCADやPDMのシステムは保有しているが、調達や生産準備、生産技術が利用するシステム(M-BOMやBOP)との連携が取れていない状況だ。
日本人は「すり合わせ」という各部門での膨大な人依存による連携で支えてきたが、現在は各部門を連携し、可視化できるシステムやソリューションが多く登場している。さらにAI(人工知能)が加わり、海外では日本の現場とはかけ離れた運用方法が始まりつつある。設計と製造現場、設計と調達、設計とメンテナンスサービス、調達とメンテナンスサービス、設計と営業など、さまざまな業務を連携させ情報をコントロールする時代に突入したと言っていい。
情報のコントロールにはBOMを中心としたデータ管理が必須であり、BOM情報を基にプロセス(QCD)をコントロールすることが必要になる。すなわちPLMの世界こそが日本に必要だ。もちろんPLMの運用にはERPとの連携も重要な要素になってくる。ただ、日本ではERPの投資ばかりが議論の中心になっているが、製造業にとってはPLMも同等以上に大切なはずだ。日本の強みであるプロセスをコントロールするPLMの重要性にフォーカスを当ててみてもいいのではないだろうか。
今後は、世界の動態を含め、最新のBOM管理やPLMのソリューションを毎月共有していく。連載を楽しみにしていてほしい。
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永井夏男(ながい なつお)/ものづくり太郎
ブーステック 代表取締役/製造業系YouTuber/PLMコンサルタント
大学卒業後、大手認証機関入社。電気用品安全法業務に携わった後、ミスミグループ本社やパナソニックグループでFAや装置の拡販業務に携わる。2020年から本格的にYouTuberとして活動を開始。製造業や関連する政治や経済、国際情勢に至るまで、さまざまな事象に関するテーマを、平易な言葉と資料を交えて解説する動画が製造業関係者の間で話題になっている。2024年4月1日にはKADOKAWAより、初の著書「日本メーカー超進化論 デジタル統合で製造業は生まれ変わる」を出版。年間の講演数は100件を超え、国内外での取材も積極的に行っている。
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