新世代フェリー「さんふらわあ かむい」で知るLNG燃料×ISHIN船型×STEPの効果:イマドキのフナデジ!(2)(3/3 ページ)
「船」や「港湾施設」を主役として、それらに採用されているデジタル技術にも焦点を当てて展開する本連載。第2回で取り上げるのは、大型フェリーにおける最新技術導入の事例となる「さんふらわあ かむい」だ。
“宿敵”造波抵抗を克服する「STEP」
さんふらわあ かむいに採用されたSTEP(Spray Tearing Plate)は、造波抵抗を低減することで船舶の燃費効率を高める省エネ装置だ。船首から発生する波のエネルギーを巧みに制御して推進性能を引き上げ、燃料消費量の削減を実現する。
従来、船舶の航行では、船首波の発生による造波抵抗が航行抵抗全体の中で大きな割合を占めている。当然ながら造波抵抗は船速の増加に伴いその影響を増していく。STEPは、船首外板と一体化させた斜めの鋼板によって波のエネルギーを左右に分散して拡散することで「波の裂け目」を意図的に生み出す。

海上技術安全研究所報告第14巻第2号に掲載された基調論文「実海域省エネ装置STEPの開発」で示されたSTEPによる造波抵抗低減の仕組み。STEPで造波抵抗に影響する船首波の「高さ」を抑えて横方向に変えることで造波抵抗を低減する[クリックで拡大] 出所:海上技術安全研究所「実海域省エネ装置:STEP」
海上技術安全研究所の水槽実験および実船試験では、STEPの搭載によって航行を阻害する抵抗が約2〜5%低減したことを確認しており、とりわけ波高1.5m以上の荒天海況で燃費改善の効果が顕著に表れる結果が出ている。波の運動を制御すれば、船体の上下動や首振り(ピッチング/ヨーイング)を緩和でき、乗り心地の向上や構造疲労の抑制といった副次的な効果も得られるという。
さんふらわあ かむいは、航行速度や燃費性能に厳しい要件が課される長距離フェリーという運用特性を踏まえ、波の影響を受けやすい船首部にSTEPを搭載した。鋼板を外板と一体化した構造は、保守性や耐久性にも優れており、従来の“外付け型”省エネ装置とは異なるアプローチといえる。
さんふらわあ かむいは、LNG燃料対応主機、空力性能を考慮したISHIN船型、造波抵抗を低減するSTEPといった多層的な技術導入により、環境性能の強化と運航効率の最適化を同時に実現している。2025年内の就航を予定する姉妹船「さんふらわあ ぴりか」との2隻体制が確立されることで、苫小牧〜大洗航路全体としての温室効果ガス排出削減および航行時エネルギー消費の低減効果のさらに向上が期待できる。
環境負荷の低減は単なる順法対応にとどまらず、燃料消費の抑制や整備性の向上といった観点から、営業航海におけるランニングコストの低減(=採算性の向上)にも直結する。今後、燃料価格の変動や規制強化によって経済的圧力が高まる中、これらの省エネ技術は船舶運用の安定性と採算性を確保する上で、よりいっそう求められるだろう。
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