「未来のくらし」を形にするデザインR&D拠点 FUTURE LIFE FACTORYとは:ITmedia Virtual EXPO 2025 冬
国内最大級の製造業向けオンラインイベント「ITmedia Virtual EXPO 2025 冬」において、「FUTURE LIFE FACTORYの過去・現在・未来」をテーマに登壇したパナソニック デザイン本部 FUTURE LIFE FACTORY リードデザイナーの中田裕士氏による基調講演の模様をダイジェストで紹介する。
アイティメディアは2025年2月12日〜3月14日までの約1カ月間、国内最大級の製造業向けオンラインイベント「ITmedia Virtual EXPO 2025 冬」を開催した。
本稿では、その中から「FUTURE LIFE FACTORYの過去・現在・未来」をテーマに実施された、パナソニック デザイン本部 FUTURE LIFE FACTORY リードデザイナーの中田裕士氏による基調講演の一部をダイジェストで紹介する。
FUTURE LIFE FACTORYの活動
FUTURE LIFE FACTORY(以下、FLF)は、パナソニックのデザイン部門において、デザインR&Dに特化して活動するデザインスタジオだ。2017年の発足以来、メンバーや取り組み方を進化させながら、「未来のくらし」のアイデアをプロトタイプとして具現化し、広く世に問う活動を行っている。
パナソニックの既存事業にはあえて縛られず、「未来のくらし」につながる新たなアイデアを生み出し、それらを実際に動くプロトタイプとしてモノ/コト問わず具現化。外部展示やイベント、公開ワークショップなどを通じて、実際に触れてもらうところまでやり遂げることを目指す。
FLFのメンバーは期間限定(およそ2〜3年ごと)の入れ替わり制で、定期的に新しい視点を取り入れられる体制としている。社内の異なる部署から、さまざまなバックグラウンドを持つメンバーが集まることで、常に新しい視点を生み出せる環境を整えている。
既存ベースの発想や固定観念からの脱却を目指し、社外との共創やコラボレーションも積極的に行う。こうした経験で得た新たなナレッジを社内に還元するとともに、FLFで活動したメンバーが任期を終えて他部署に異動することで、パナソニック社内にイノベーション人材を増やしていく。
プロジェクト「AWARENESS」で探る 未来の工業デザイン
これまでの活動事例の1つに「AWARENESS」がある。このプロジェクトは、「未来のくらし」における工業デザインの可能性や、人とテクノロジーとの向き合い方、これからの工業デザインの美しさについて考察するものだ。
グローバルで瞬時に情報が共有される現在、機能や利便性、モノづくり上の合理性を追求することで「デザインが均質化していくのではないか」(中田氏)という危機感があった。そこでAWARENESSでは「人間が本能的に感じる心地よさ」という極めて感覚的なものを中心に据え、それをいかに工業的な手法で具現化するかを議論し、最終的に5つのプロトタイプに落とし込んだ。
1つ目のプロトタイプは、形状記憶合金を使い熱に反応して開閉するルーバー「Ununiformity」である。形状記憶合金の動きを動力とし、太陽光の熱に応じてゆっくりと静かに開閉する構造だ。再現性のなさや不均一さが心地よさを生み出す。モーターを使わないため大掛かりな装置にならず、静かに駆動する。
2つ目は、撥水加工した布の上に垂らした水滴をコントロールするデバイス「Presence」だ。水滴が不規則に移動、変形、光を反射することで、生物のような意思を感じさせる。予測不能な動きに愛着が湧き、穏やかな気持ちを生み出す。
3つ目は、光源の前に配置したレンズの距離や傾きをコントロールすることで、環境光と情報提示をシームレスに変化させる照明器具「Intimation」だ。ワイヤでレンズの角度を調整し、連続的に多様な光の表情を投影する。レンズによる光の「気配」で穏やかな情報伝達を行い、空間と人をつなぎ、心地よさを生み出す。
4つ目は、水面に浮かべた葉や石などのオブジェクトを環境音楽に変換するシーケンサー「Transition」だ。浮かぶ物体や風に揺れる景色を通して音が奏でられ、繊細な揺らぎを感じ取れる。
5つ目は、ネジ状のバーに複数のフィルムをぶら下げて回転させるだけのシンプルな機構によって、風が吹いているような揺らぎを再現するデバイス「Continuity」だ。モーターの規則的な動きと素材の自由さが組み合わさり、心地よいリズムが生まれる。
これらのプロトタイプは、2024年6月に社内展示および一般公開され、10日間で約400人のデザイナー、エンジニア、学生らが来場した。来場者からは「企業として概念までフォーカスしていることに感銘を受けた」「普段美しいと感じているモノの美しさの源泉をあらためて考えた」などの感想が寄せられた。
また、「心地よさ」について語り合う場面も見られ、中田氏は「目指したコミュニケーションの場が実現できた」と手応えを感じたという。この取り組みでは、一般的な製品開発のように機能や利便性からではなく、心地よさを起点にしたプロトタイピングを通じて、「未来のくらし」におけるデザインの新機軸を探った。さらに、そのアウトプットを展示して世に問うことで、未来の製品への応用を模索すると同時に、生活者の直感的な感覚を呼び起こし、多様な豊かさへの気付きや価値の変容を促すことも狙う。
講演では、その他のFLFの活動事例として、心理的な側面にアプローチした「ずれずれなるままに」や、未来のモノづくりの仕組みを考察する「OUR PRODUCTS」なども紹介した。
表参道の新拠点で活動を加速
FLFは2024年10月に、ラボ兼ギャラリースペース「FUTURE LIFE FACTORY OMOTESANDO」(東京・表参道)を開設しており、今後、この拠点を通じてユーザー/顧客/パートナーと直接つながり、アイデアやプロトタイプに対する意見を吸い上げていく。
施設の内部は約3分の1が作業スペースとなっており、プロトタイプの製作を行う。残りのスペースは展示やイベントに利用可能だ。FLFは「未来のくらし」を実際のプロトタイプとして形にしながら、FUTURE LIFE FACTORY OMOTESANDOをその活動の中心拠点に据え、ユーザーとの対話や体感の提供を通じて、その取り組みをさらに加速させていく考えである。
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