“真のメドテック”に向け、オリンパスが選んだサプライチェーン組織改革:ITmedia Virtual EXPO 2025 冬 講演レポート(2/2 ページ)
アイティメディアは「ITmedia Virtual EXPO 2025 冬」を開催した。本稿では、その中から「『真のメドテック』へ――オリンパスが挑むサプライチェーン組織変革」をテーマとした、オリンパス 執行役 CMSOの小林哲男氏による講演内容を紹介する。
2022年からサプライチェーン組織を2段階で変革へ
そこで、2022年に医療機器を対象として、本格的なグローバルオペレーションへの変革に着手した。取り組み方として、まず以下の5つの柱に合わせて活動を開始した。
- Enablement and Operating Model:グローバルメドテックにふさわしい組織体制、役割責任、ガバナンス、専門性、パフォーマンス管理、プロセス、ケーパビリティ、カルチャーの定義と構築
- Industry Leading QCD:サプライヤー、輸送、製造、在庫、ディストリビューションとサプライチェーン横断でのメドテックとしての競争優位となるQCDの強化
- Network Optimization:長期的な事業成長を可能にするため、サプライヤー、製造、物流、修理拠点のネットワークをコスト、品質、レジリエンス面で最適化
- Digitalization:今後のIoT(モノのインターネット)化、自動化、規制対応能力、外部要因ショックへの柔軟性の基礎となるデジタル基盤の構築と進化
- Sustainability:外部環境変化に適応したレジリエンスの強化
その内で最初に取り組んだのが、Enablement and Operating Modelとした組織変革だ。具体的には、2022年以降で2段階の組織変革を行った。
第1段階では大きく2つの変更を行った。1つは先述したCMSO組織の新設だ。供給責任を一気通貫で果たすためにこれまでコーポレート部門と技術開発部門に分散していた調達、製造、サプライチェーンマネジメントの機能をCMSO傘下に集約した。
もう1つが、グローバル機能軸オペレーションへの転換である。これまで各地域、拠点に閉じていたレポートラインを拠点内の各機能が、それぞれのグローバル機能長へレポートする形に変更した。グローバル機能が地域横断で最適化できるガバナンス体制へと移行した。CMSO組織の新設においては、地域軸経営から機能軸オペレーションへの転換、機能軸をグローバルヘッドクォーターへ集約、ダイバーシティーの促進という3つをポイントとして進めた。
第2段階での主要な変革ポイントが、事業別に3つのオペレーション機能を設立し、ダイバーシティーをさらに進化させたところにある。
第1段階での変革から2年を経てグローバルベースでのオペレーションが定着したことを確認した上で、事業構造に即した3つのオペレーション組織に再編した。これにより、事業部門とのコミュニケーション窓口を一本化し、事業、最終的には顧客にとって最適な優先順位や経営資源配分を明確化し、意思決定のスピードアップを図った。
また、専門性を強化する横串機能についても、これまでの調達、サプライチェーン機能に加えてプロセス、標準化やデジタル化を推進するオペレーショナルエクセレンス機能と将来技術を支えるコア技術開発の機能をCMSO直下に設置し、専門性の観点で3つのオペレーション機能をサポートする体制とした。CMSO内を事業軸と機能軸のマトリックス型の体制に移行したことで両軸のそれぞれの役割責任を一層明確にし、権限移譲を推し進めることで複雑ながらもスピード感のある意思決定を担保することも重要視したという。
変革を進める中で心掛けたこととして、小林氏は以下の6つの点を挙げる。
- “患者さんの安全”が最優先
- 標準化と単純化
- 役割責任の明確化
- 優先順位の明確化
- ダイバーシティーの強化
- 業界スタンダード、外部目線の取り入れ
「この中でも特に3つを今回は強調したい。医療機器メーカーとして“患者さんの安全”が最優先であり、そこを起点に製造現場としてもその視点でさまざまな改善を進めていく必要がある。また、リソースに限界がある中で全てに取り組むことが難しい中で、より重要な効果を考えるため、優先順位の明確化は変革を進める上で非常に重要になる。そして、自分たちの常識に縛られないためにダイバーシティーの強化が必要だ。特にオリンパスは顧客の8割は海外であり海外人材の登用とともに、世界で戦える国内人材の育成にも力を入れていく」と小林氏は語っている。
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