デジタルサプライチェーンツインを成すサプライチェーンモデルとデジタル基盤とは:製造業DXの鍵−デジタルサプライチェーン推進の勘所(5)(1/3 ページ)
サプライチェーンにおける業務改革を推進する中で、デジタルがもたらす効果や実現に向けて乗り越えなければならない課題、事例、推進上のポイントを紹介する本連載。第5回は、デジタルサプライチェーンツインの実現に必要なサプライチェーンモデルとデジタル基盤について紹介する。
デジタルサプライチェーンツインの実現には何が必要か
連載第2回において、本質的なDX(デジタルトランスフォーメーション)に向けたサプライチェーンマネジメント(以下、SCM)の構築には、変化対応力を強める、業務領域をつなぐプロセスに手を打つべきであり、特定の個別領域でのデジタル活用でとどまることなく、エンドツーエンド(以下、E2E)全体へ取り組みを波及させていくことが重要であるとお伝えした。
⇒連載「製造業DXの鍵−デジタルサプライチェーン推進の勘所」バックナンバー
前回記事(連載第4回)は、業務領域をつなぐプロセスを対象とした取り組みとして、「グローバルPSI(生産・販売・在庫)計画」「流通PSI計画」「サプライヤー計画連携」という3つの事例を紹介した。また、SCMにおけるデジタルモデルを示し、「個別領域の情報のデジタルツイン化」に加えて、「サプライチェーン全体でデジタルツイン(デジタルサプライチェーンツイン)」を実現し、サプライチェーンの可視化、分析、計画、意思決定につなげることが必要であることを説明した。
しかしながら、サプライチェーンは複雑化しており、ただ単純に各領域のデータを結合するだけでは企業のDXを支えるためのデジタルサプライチェーンツインの実現はできない。現実のサプライチェーンをデジタル上に再現するための、サプライチェーンモデルの構築が肝となる。
第5回の今回は、デジタルサプライチェーンツインの実現に必要なサプライチェーンモデルとは何か、E2Eサプライチェーンモデル構築の勘所、デジタル基盤(プラットフォーム)に求められる要件とは何かについて紹介する。
サプライチェーンモデルとは何か、なぜ必要なのか
サプライチェーンモデルは、現実のサプライチェーンにおける物流、商流、情報流を「定義」したモデルである。
昨今のサプライチェーンは、グローバルに生産拠点や物流拠点、販売拠点が存在し、実際に顧客に届けるまでにさまざまな経路をたどっており、その経路には自社グループ以外にもさまざまな企業が関わるなど非常に複雑である。その中で、需要と供給のギャップのコントロール(=変化対応)を行わなければならない。そのためには、需要側と供給側の双方向からの「データ」を早く、確実に、相互に伝えることが重要であり、一つ一つのデータが持つ意味を定義し、関係者が正しく理解することが必要である。
データ定義が不十分な事例
E2Eでサプライチェーンの可視化、共有を目的として各所からデータを収集する時に起こりがちな例を紹介する。ある本社部門がグローバルの各販売拠点の「販売実績と在庫実績」を収集しようとしている。例えば、読者の皆さんは、自身がデータを提供する立場となった場合、販売実績と聞いて何を想像するだろうか。販売倉庫からモノが移動した時点の実績、売り上げを計上した時点の実績というようにさまざまだろう。在庫実績も同様に、倉庫内にある実際のモノの数だけを示すのか、倉庫にはまだ入庫されていないが、資産計上されている輸送中のモノの数も含めるのかなどがあり、データの意味に対し人によって複数の解釈ができてしまう。
これによって、各販売拠点の判断により、別々な意味を持つデータが集まり、それを集約しても正しい可視化ができないという事態が発生する。データの意味を定義していない中でデータを集約しても、サプライチェーンを正しく可視化することは不可能であり、そのデータを基とした意思決定が正しいものとはいい難い。
SCMにおけるプロセスの品質、精度、意思決定の良しあしはデータによって決定されるといっても過言ではない。立派な目的と戦略、プロセスを定義したとしても、それを支えるデータがそろわないと意味を成さない。しかしながら、サプライチェーンモデルが定義できておらず、データが整っていない企業が多くある。
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