検索
連載

デジタルサプライチェーンツインを成すサプライチェーンモデルとデジタル基盤とは製造業DXの鍵−デジタルサプライチェーン推進の勘所(5)(2/3 ページ)

サプライチェーンにおける業務改革を推進する中で、デジタルがもたらす効果や実現に向けて乗り越えなければならない課題、事例、推進上のポイントを紹介する本連載。第5回は、デジタルサプライチェーンツインの実現に必要なサプライチェーンモデルとデジタル基盤について紹介する。

Share
Tweet
LINE
Hatena

E2Eサプライチェーンモデル構築の勘所

 E2Eでサプライチェーンモデルを構築する上での勘所を紹介する。まず、単純にいえば「生産(調達)活動と販売活動の繰り返し」がサプライチェーンである。よってE2Eサプライチェーンモデルは、生産(調達)活動と販売活動をモデル化しつなぎ合わせたものといえる。

 生産(調達)活動と販売活動のモデルは、基本的に以下の3つの要素(PSI)で表現される。

  • 生産(調達)活動:調達(Purchase)、製造(Production)
  • 販売活動:販売(Sales)、運搬(Shipment)
  • 生産(調達)活動と販売活動の間:在庫(Inventory)

 生産(調達)活動をインフロー、販売活動をアウトフロー、そしてインフローとアウトフローの時間的な差異を在庫(ストック)と捉えると分かりやすい(図1)。

図1
図1 生産(調達)活動と販売活動のモデル(クリックで拡大)

 ここで重要なことは、先述の通り各活動の計画と実績を捉えるデータの意味と、PSIをどんなくくり(物理的な工場や倉庫単位、論理的な単位など)で捉えるかという定義である。どのように定義するかは、サプライチェーンをどこで、どのようにコントロールするかによるため、一概に正解はなく、見極めが大切である。

 E2Eサプライチェーンモデルとして、生産(調達)活動と販売活動をモデル化しつなぎ合わせるためには、「物流ネットワークとしてのPSIのつなぎ」、「経営層と管理層・現場層とのPSIのつなぎ」および「データ取得タイミングの同期化」の観点が重要となる。

物流ネットワークとしてのPSIのつなぎ

 上記モデルは、単一階層PSIとしてのモデルであるが、グローバルにおけるサプライチェーンは、PSI同士をつなぎ合わせた多階層モデルとなる(図2)。

図2
図2 グローバルサプライチェーンモデル(クリックで拡大)

 その場合、調達や製造、運搬に関わる時間的要素(リードタイム)を加える必要がある。また、手段(航空輸送、海上輸送など)によってリードタイムが異なる場合は、その点もモデルとして加えなければならない。例えば、日本の工場から米国の販売拠点にモノを運ぶ場合、海上輸送と航空輸送ではリードタイムが異なるため、1つの手段を前提としてモデルを構築した場合、実際と大きく懸け離れてしまう。

 前回記事(連載第4回)で紹介した全ての事例は、前提としてデジタル上にサプライチェーンモデルを構築し、計画業務の連携や実績を捉えている。「グローバルPSI(生産・販売・在庫)計画」の事例は自社もしくは自社グループの組織内でのサプライチェーンモデルを構築し実現しているが、「流通PSI計画」「サプライヤー計画連携」の事例は、企業の壁を越えて川上方向ないし川下方向に拡大し、サプライチェーンモデルを構築し実現している。

経営層と管理層・現場層とのPSIのつなぎ

 販売活動や生産活動の実行には実際のモノを作る、動かすことが必要であるため、製品コードや仕入れ先、出荷先などの詳細レベルのデータが必要となる。一方で中長期の計画、意思決定をするためには製品コードなどの詳細レベルのデータでは粒度が細かすぎて、全体感がつかめなくなる。そのため、中長期の計画、意思決定には全体、地域、拠点、製品群などの集約した情報が必要になる。経営層と管理層、現場層が連携していくためには集約したデータと詳細データを相互に変換できなければならない。

 また、経営層は金額を中心とした意思決定になるため、数量の観点だけではなく、金額の観点、つまり商流の観点も加味することが必要である。例えば、3国間貿易の場合、物流と商流は異なるため、正しく金額を把握するためには、物流と商流を相互に変換できなければならない。サプライチェーンモデルは、物流に加えて商流の考慮が必要になる。

データ取得タイミングの同期化

 E2Eサプライチェーンモデルは、デジタル上でサプライチェーンを再現する枠組みであるが、モデル上で正しく状態を把握し意思決定につなげていくためには、必要となるデータを適切なタイミングで取得する必要がある。

 例えば、週サイクルの計画プロセスを定義しても、実績データが月次でしか取得できなければプロセスは回らない。グローバルに展開する拠点のデータを、業務やデータの締めのタイミングを考慮し、整合性が保たれる時点でそろえて取得できなければ、プロセスの精度は悪化する。必要なデータを、グローバルで整合性を保ち取得するために、タイミングも合わせて定義しておかなければならない。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る