労働生産性の向上に役立つ「有効作業分析法」とは何か:現場改善を定量化する分析手法とは(12)(3/3 ページ)
工場の現場改善を定量化する科学的アプローチを可能にする手法を学習する本連載。第12回は、製造現場の人の作業を「有効作業」と「無効作業」に分けて分析し、無効作業を徹底排除あるいは改善すると同時に有効作業もさらに改善を促進して、作業速度を飛躍的に高めることで生産性と経営効率の向上を図る「有効作業分析法」について説明します。
2.5 有効作業分析法を適用する際の主な留意点
以下に、「有効作業分析法」の適用上の主な留意点を列挙しましたので、作業分析時の参考にしてください。
- (1)有効作業分析は、あくまでも改善のポイントを見つけることが目的であり、分析結果としての有効作業率の高低が職場のレベルの善し悪しを現す指標にはなりません。むしろ、どれだけ改善されたかを図る指標と捉えるべきです。前述の機械化の進んだ職場の方が有効作業率が低い点などからもいえます
- (2)有効作業か無効作業かの判定は、現場の管理監督者や作業者の心情的な抵抗もありますが、むしろ厳しめに無効の方向として評価を行う方が、改善の領域が広がり望ましいといえます
- (3)対象作業の作業者の作業レベルで見た時、全て無効である場合、例えば設備保全(PM:Preventive Maintenance)マンの作業は全部無効となり、作業分析による改善につながりません。従って、PMマンの作業改善を行うためには、PM本来の作業を有効とし、副次的な作業を無効とするようにします。例えば、実際に機械設備の修理作業を有効、現場への移動や工具の準備などを無効とします
- (4)有効作業の分析は、比較的多くの時間を費やします。この分析は、あくまでも無効動作を主とした改善点を多く見つけ出すための手段であり、対象職場のレベルを超えた高精度な分析は必要としません
- (5)有効作業分析の目的は、工場内の一部分の職場に適用して改善事例を作成することではなく、工場レベルの広域で展開して効率の最低値や平均値を上げ、経営改善を行うものです。従って、個別活動ではなく全体で推進していく仕組みを作り、その中で運用されるべきです
3.まとめ
「有効作業分析法」は、作業効率の向上や作業時間の短縮を目的とした作業分析の手法の一つです。作業を観察/記録し、作業や動作のムダを排除して効率的な作業設計をするために適用されます。この方法は、動作研究(Motion Study)を基礎としており、最小限の努力で最大の成果を得ることを目的としています。
具体的には、作業動作を最小単位に分解して記録するための分析手法のサーブリック(Therbligs)の活用や、時間研究(Time Study)の活用によって作業時間を測定して、効率的な動作の設計や改善を行います。また、5S(整理、整頓、清掃、清潔、習慣)を通して、作業の効率化を目指すことも効果的です。この手法は、作業効率を向上させるだけでなく、作業者の負担を軽減し、全体的な業務の質を高める効果があります。「有効作業分析法」は、以下の主な基本原則に基づいて作業を評価します。
- (1)ムダな動作の排除
不要な動作や重複した作業をなくすことで、効率を向上させる - (2)作業の標準化
最も効率的な動作や順序を決め、それを作業者間で共有する - (3)動作の簡略化
作業を簡単で短い作業や動作に分解し、体力や時間を節約する - (4)動作の流れを最適化
作業がスムーズに進むように、作業の流れや環境を設計する - (5)作業者の負担軽減
体に無理のかからない姿勢や道具の配置を考慮し、作業負担を軽減する
◇ ◇ ◇ ◇
今日、いかにして生産性を上げ経営体質を改善させるかは、重大な課題です。例えば、作業の自働化や無人化生産システムの開発などの生産技術革新の中にあっても、生産活動の多くは未だに人の作業に頼っているのが実情ではないでしょうか。従って、この“人”の作業効率をさらに高めることは、いつの時代になっても常に直面する重要な課題であるということがいえます。
「有効作業分析法」によるアプローチは、手法的には非常に難解な面が多々ありますが、大きな設備投資を必要とせず、即効的な効果が期待できますので、昨今の厳しい経済状況における経営ニーズにまさにマッチした手法といえます。
この「有効作業分析法」は、“作業の付加価値”に着目し、さらに製品に直接付加価値を生じさせないムダ作業である“無効作業”を主として改善することで、効果を上げることができる作業効率向上技法として確立された分析法です。本分析法の適用により1〜2カ月の短期間の活動で、20〜30%程度の効率向上の達成が可能であるという実績もあります。
筆者紹介
MIC綜合事務所 所長
福田 祐二(ふくた ゆうじ)
日立製作所にて、高効率生産ラインの構築やJIT生産システム構築、新製品立ち上げに従事。退職後、MIC綜合事務所を設立。部品加工、装置組み立て、金属材料メーカーなどの経営管理、生産革新、人材育成、JIT生産システムなどのコンサルティング、管理者研修講師、技術者研修講師などで活躍中。日本生産管理学会員。
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