現場努力を反映したCO2排出情報へ、IVIがデータ連携基盤で仲介するサービスを開始:スマートファクトリー
IVIは、実証実験の成果をもとにトラストなデータ連携基盤を用いたカーボンフットプリントの仲介サービスを2025年4月から本格展開する。
「つながる工場」実現に向け、製造業、製造機械メーカー、ITベンダーなどが参加するインダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)は2025年3月6日、実証実験の成果をもとにトラストなデータ連携基盤(CIOF)を用いたカーボンフットプリント(CFP)の仲介サービスを同年4月から本格展開すると発表した。
工場のCO2排出削減努力を反映できるような仕組みを
世界的なカーボンニュートラルへの機運が高まる中で、事業活動の中で多くのCO2を排出する製造業には、サプライチェーン全体で脱炭素化を進めていくことが強く求められている。グローバル企業との取引では一部で取引要件として加えられるような動きも出ており、各社で対応が求められている。
CO2を含む温室効果ガスの排出量削減のためには、現在の活動でどれだけの排出量があるのかを正確に把握する必要がある。しかし、これまでのCFPの算出では、外部のデータベース上で公開されたCO2排出原単位を用いるのが一般的だった。このやり方は計算は楽だが、社内でCO2排出量削減に向けた努力の成果が反映されないという課題があった。ただ、従来は製造ラインで正確にCO2排出量データを簡単に収集し、外部に共有するための仕組みを構築することが大きな負担となっており、一部の大企業を除けば対応が難しい状況があった。
そこで、IVIでは、安価に実装可能なIoT(モノのインターネット)キットを用いて生産ラインから直接データを取得し、容易に積み上げ方式でCFPを計算できる仕組みを提供する。生産現場の1次データは、事業者間で直接共有するのではなく、トラストなカーボンチェーンネットワーク(CTN)サービスで仲介する。これにより、事業者は、取引先に対して製造ノウハウを秘匿したまま、CFPの信頼性を示すことが可能となる。
データを共有する連携基盤としては、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の補助事業としてIVIが開発した「コネクテッドインダストリーズオープンフレームワーク(CIOF)」を活用する。CIOFは、インターネット上でのデータ取引の信頼性を確保する仕組みを取り込んだデータ基盤だ。データ構成や項目のレベルまで定義し、それらを利用するサービスと共に事業者間で事前に契約として定める仕組みを保有している。2019年度に開発を開始し、2022年4月からIVIの内部組織であるCIOFパートナーズが運営を管理している。
IVIでは、この仕組みを生かした、積み上げ方式によるCFPの算出方法を2024年3月に提案し、中小企業や大企業それぞれで実証実験を進めてきた。参加企業の一社であるブラザー工業では、量産や多品種少量生産の現場で得られるデータを、輸出製品のCFP計算に利用し、高い精度での算出を達成したとしている。さらに、CIOFを用いて協力工場間でCFPデータを共有し、双方のCO2コスト削減に貢献したとしている。
実証実験の成果および新たに開始するCTNサービスの概要は、2025年3月13日に開催されるIVI公開シンポジウムで発表する予定だ。CTNサービスは、IVIメンバー企業には無料で提供し、2025年度中に200社への展開を目指すとしている。
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