日本の失業率は世界の中でも低水準なのか? 先進国と比較してみると:小川製作所のスキマ時間にながめる経済データ(32)(2/2 ページ)
ビジネスを進める上で、日本経済の立ち位置を知ることはとても大切です。本連載では「スキマ時間に読める経済データ」をテーマに、役立つ情報を皆さんと共有していきます。今回は完全失業率の国際比較を見ていきます。
女性の失業率推移
続いて、現役世代女性の失業率についても眺めてみましょう。男性労働者との違いがあるか注意してみたいと思います。まずは、主要先進国の推移からです。
図3が現役世代女性の完全失業率です。イタリアがことさら高い水準なのが目立ちますが、アップダウンのタイミングなどは男性と同じような傾向ですね。2023年はコロナ禍によるピークも収まり、総じて失業率が低下しているタイミングとなっているようです。
女性の失業率国際比較
最新の失業率について国際比較してみましょう。
図4がOECD各国の現役世代女性の完全失業率を国際比較したグラフです。上位にはギリシャ、スペイン、コロンビア、トルコ、コスタリカなどが並び、イタリアやフランスが続きます。これらの国は、男性よりも失業率が高いようです。
一方で、米国と英国は3.5%と男性よりも低く、ドイツ(2.9%)、韓国(2.7%)、日本(2.5%)はさらに低いことが示されています。特に日本は2023年で最も女性の失業率が低い国となっていますね。米国、英国との差は1ポイント程度です。
日本は特に女性の就業率が上昇している特徴があります。主にパートタイム労働者の増加が顕著ですが、望めば就ける仕事が多いという特徴があるのかもしれませんね。
失業率の特徴
今回は、現役世代の完全失業率について、男女別の国際比較をご紹介しました。日本は失業率の低い国として知られていますが、他国と比較してみると確かに、先進国の中でも相対的に低い国であることが分かります。
一方で、近年では韓国やドイツとは同程度で推移していますし、米国や英国とは1ポイント程度の違いでしかありません。
日本だけ極端に失業率が低いわけではないようです。
ただし、他の主要先進国は失業率にアップダウンがあり、景気によって労働者数がある程度調整されている様子がうかがえます。日本は相対的に見れば変動が緩やかで、雇用を守る傾向にあるとも考えられそうです。
また、主要先進国の中でもイタリアとフランスは失業率が相対的に高い傾向にあります。今後ご紹介しますが、これらの国は失業が多い反面、給付も多く、失業率/就業率を加味した等価可処分所得で見ると日本を上回ります。
特にフランスは再分配後の貧困率が低く、所得格差が小さい特徴があり、貧困率が高く所得格差の大きい日本とは対照的です。私たちの暮らし向きを測るうえで、失業率だけを見ていても一面的な見方となります。所得水準、失業率/就業率、再分配による所得格差/貧困率の是正について、総合的に見ていく必要がありそうです。
本連載でも、今後所得格差、貧困率、等価可処分所得についてご紹介する予定です。
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筆者紹介
小川真由(おがわ まさよし)
株式会社小川製作所 取締役
慶應義塾大学 理工学部卒業(義塾賞受賞)、同大学院 理工学研究科 修士課程(専門はシステム工学、航空宇宙工学)修了後、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーにて新規航空機の開発業務に従事。精密機械加工メーカーにて修業後、現職。
医療器具や食品加工機械分野での溶接・バフ研磨などの職人技術による部品製作、5軸加工などを駆使した航空機や半導体製造装置など先端分野の精密部品の供給、3D CADを活用した開発支援事業などを展開。日本の経済統計についてブログやTwitterでの情報発信も行っている。
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