nmスケールの極微小欠陥をワンショットで検出、東芝が半導体検査装置向けに提案:製造現場向けAI技術
東芝と東芝情報システムは、生産現場における外観検査において、半導体ウエハーなど検査対象の表面にあるnmスケールの高低差を持つキズなどの欠陥を、1枚の撮像画像から3D形状に瞬時に可視化する新たなワンショット光学検査技術を開発したと発表した。
東芝と東芝情報システムは2025年2月26日、生産現場における外観検査において、半導体ウエハーなど検査対象の表面にあるnmスケールの高低差を持つキズなどの欠陥を、1枚の撮像画像から3D形状に瞬時に可視化する新たなワンショット光学検査技術を開発したと発表した。既に外部提供が可能なレベルで技術開発が進んでおり、今後は東芝情報システムを通じて半導体製造装置メーカーなどへのライセンス提供していきたい考えだ。
東芝は2019年11月、カラーフィルターを用いた独自の撮像光学系技術をベースに、対象物に入射された照明の反射光の方向情報を色の分布画像として撮像するワンショット光学検査技術を発表している。この段階ではμmスケールの微小な欠陥を検査できることを特徴としていたが、今回開発した新たなワンショット光学検査技術では、さまざまな工夫をこらすことで数十nmの高低差の欠陥を検査できるようになった。
新たなワンショット光学検査技術の開発における取り組みは大まかに分けて2つある。1つは、従来のワンショット光学検査技術で用いていた同心円状のカラーフィルターを、マルチカラーのストライプ状に変更したことだ。ワンショット光学検査技術では、検査対象からの反射光の方向分布を色の分布画像として取得する。反射光分布は、BRDF(双方向反射率分布関数)によって記述されるが、ストライプ状カラーフィルターを用いることで、反射光の角度と色の種類が直接対応できる関係となり、反射光の角度分布をより高精度に得られるようになった。
もう1つは、得られた反射光角度分布を入力し、対象物表面の3D形状(高さ分布)を出力とする独自の計算アルゴリズムの開発である。この計算アルゴリズムは、訓練データが不要な教師なしDNN(ディープニューラルネットワーク)モデルであり、対象物表面の傾斜角度と高さ分布の関係を物理式を利用して学習する。これにより、検査対象の表面形状が複雑でも、欠陥検査には充分な誤差数nm以内での表面3D形状の再構築が可能になった。
nmスケールの欠陥検査手法には、カンチレバーが対象表面をなぞるAFM(原子間力顕微鏡)や、光学系を光軸方向にスキャンしながら撮影する対象表面の顕微鏡拡大画像を用いて干渉縞の変化を取得し表面3D形状を再構築する白色干渉などがある。しかしこれらは、対象表面をスキャンする必要があるため時間がかかり、直径300mmに達する半導体ウエハーなどの全面検査に適用するのは現実的ではない。
これに対してワンショット光学検査技術は、その名の通り、カメラで検査対象の表面のうち数十mm角のエリアを1回撮影するだけで欠陥を検出できる。複数のカメラを用いれば、直径300mmの半導体ウエハーの欠陥を1回の撮影で検出することも可能であり、全面検査の道筋を開ける。
現行技術である白色干渉計と新たなワンショット光学検査技術を比較したところ、高低差の誤差は数nm以内に収まっており、検査目的としては十分な精度を出せることを確認できた。視野が数十mm角程度と白色干渉計よりも十分に広いことも確認できている。
なお、開発した技術については、米国光学会の学術論文誌であるOptics Continuumのオープンアクセス論文として掲載される予定だ。
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