まるで近未来の複座戦闘機、無人運航船の“移動型”陸上支援センターに乗ってみた:船も「CASE」(3/3 ページ)
日本財団が無人運航船開発プロジェクト「MEGURI2040」の一環として製作した移動型陸上支援センターを報道陣に公開した。公開に伴う説明会では、実車展示とともに、日本財団による移動型陸上支援センターの目的やコンセプトの紹介、開発を担当した日本無線による仕様の説明などが行われた。
日本無線が描くスマートシップ実現までのマイルストーン
日本無線 執行役員の井上眞太郎氏は、MEGURI2040の第2ステージで取り組む無人運航船の船陸連系技術開発と実証の内容を説明した。
MEGURI2040の第2ステージでは到達目標として「実証実験」「開発した技術の規格化」「開発プロセス基盤の強化」「社会実装」を掲げているという。これらのうち実証実験では、既に2023年10月に既存RORO貨物船による日立港ー釧路港間の往復約1600kmの営業運航において『船上システム単独機能で構成する「自動運航システム」の海上実証実験』を実施。衝突を避けるための「避航」が必要な情況において、避航ルートの提案と操舵制御に成功した他、自動運航システムが正常動作する運航設計領域=ODD(Operational Design Domain)でシステム稼働率平均約96%を達成したことが紹介された。
井上氏は、MEGURI2040第2ステージにおいて開発を目指す機能要素の全体像についても解説している。井上氏は無人運航船の実現のために必要な機能要素を「船上システム」「陸上システム」「船陸間通信システム」の3領域に分類する。
船上システムを構成する機能要素としては「Target detection」「Planning」「Actuation」を挙げた。Target detectionでは障害物(=ターゲット)を認識する複数のセンサーを組み合わせた物標検出技術を開発、Planningではルート(=避航ルートなど)の自動生成技術の開発、Actuationでは操舵機の自動制御技術開発をそれぞれ目指すとしている。
陸側システムを構成する機能要素としては「Continuity」「Analysis」「Realization」を挙げる。Continuityでは冗長性と拡張性を有する支援機能のクラウド化を、Analysisでは予測情報による高度な航海支援機能とクラウド連携による小型船物標情報の補完を、Realizationでは無人運航船の過去データ再生機能の提供とデジタルツイン技術利用による本船周囲状況の再現をそれぞれ目指すという。
また、船陸間通信システムではサイバーセキュリティリスクを考慮したクラウド通信の適用を可能にするという。「ここが強化されないと外部から無人運航船をコントロールされてしまうことにもつながりますので注意が必要です」(井上氏)。
続けて井上氏は移動型陸上支援センターのコンセプトを紹介した。井上氏は4項目のコンセプトを掲げているが、その中には、移動型だからこそ、災害時や停電時にも拠点を問わず運用を継続できるとともに、“ミニマム”な設備で複数船をモニタリングおよび遠隔支援できることが含まれている。「設備をミニマムとして船を管理される方々が導入しやすいシステムとなっています。クルマに搭載してもオフィスに搭載しても設備が少ない方が場所的にもコスト的にもメリットがあります」(井上氏)。
井上氏は、日本無線が掲げている将来像「陸と船の全てをつなげ、未来を創るスマートショップ」についても説明した。日本無線では、「自動運航」の実現を目指したマイルストーンを独自に設定している。そのマイルストーンは3つの世代に分かれており、第1世代では船舶のデジタル化で「船陸連携による海の見える化」を実現し、第2世代では安全航行のための支援機能を持たせた有人による自律運航、第3世代では完全な自動運航の実現をそれぞれ目指すとしている。井上氏は「第2世代までは完了しており、現在は第3世代の研究開発と実証実験を進めています」と現時点における進捗を説明している。
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