フィールドバスのオープン化の始まり:産業用ネットワークのオープン化の歴史(2)(2/2 ページ)
本連載では、産業用ネットワークのオープン化の歴史を紹介します。今回からは、フィールドバスのオープン化について説明します。まずは、改めてフィールバスとは何かについて考えます。
「フィールドバス」が誕生した経緯
現在では、「フィールドバス」は製造現場に使われる測定器および操作器と制御機器を、デジタル通信でつなぐネットワークの一般名称として使用されています。
ただし、1990年当時、「フィールドバス」はプロセスオートメーション系の企業が作成するプロセス用の現場ネットワークを指していました。
というより、初めて「フィールドバス」という名称を使用したのは、米国のISA SP(Instrument Society of America Standards Practice)50委員会で、ここでプロセスオートメーション用の現場ネットワークの仕様作成が行われたのです。
従って、図1「ISO/CIMモデルのハイアラーキシステムイメージ」に記載されている「フィールドバス(H1)」「フィールドバス(H2)」とは、その当時、ISA SP50委員会で仕様作成を進めていたネットワークの名称です。
後で述べますが、ISA SP50委員会の役割はおおむねFieldbus Foundationという団体(現在のFieldComm Group)に移行していき、その段階でFieldbus Foundationが推進するフィールドバスを「Foundation Fieldbus」という名称としました。
従って、単に「フィールドバス」というと、それが一般名称の工場の現場ネットワークを指すか、Fieldbus Foundationという規格を指すかが分からない場合がありますのでご注意ください。
本稿ではこれから「フィールドバス」と書く場合、イクイップメントレベルとステーションレベル間のネットワークの一般的なデジタル通信を差し、ISA SP50委員会およびFieldbus Foundationが普及を目指したネットワークは「フィールドバス(H1)」「フィールドバス(H2)」またはFoundation Fieldbusと記載することにします。
産業用オートメーションのネットワーク要件
産業用オートメーションの世界は(大きく分けて)プロセスオートメーションとファクトリーオートメーションの2つに分かれて成長してきました。そして、プロセスオートメーションとファクトリーオートメーションの要求するフィールドバスは違いがあります。
プロセスオートメーションとファクトリーオートメーションの違いについては、本稿以外の資料でチェックできると思いますが、この点が分からないと本稿の説明も良く分からなくなるのでもう少し前提の説明にお付き合いください。
一般の方から見ると、工場のオートメーションは製造工程の「機械化」なので、スイッチを入れて、機械が動いて、製品ができればどれでも同じようなものに見えるかもしれません。
しかし、同じ「機械化する」というオートメーションにも石油、石油化学、化学、鉄鋼などの素材系の製造に使われるプロセスオートメーションと、機械、電機などの機械系の産業に使われるファクトリーオートメーションの2種類があります(当然、この混合もあるのですが、一応、2種類と考えてください)。
プロセスオートメーションとはプロセス産業で使われるオートメーションです。プロセス産業では、(一般的に)熱や圧力を原料(素材)に加えて、原料の組成を変化させて製品を作ります(つまり素材産業ともいいます)。
測定の対象は温度、圧力、流量、レベル、成分などであり、バルブを流量変化させる操作器として使用することが多いようです。また、使用する制御用コンピュータは(多くの場合)DCS(Distributed Control System)とよばれています。
DCSはパネル計器※1と呼ばれる制御パネルに設置された表示器と、制御機能を持つ機器がコンピュータ化したものとも考えられます。
※1…パネル計器とは、工場の現場から伝送される電気信号、空気信号をアナログ形式、またはデジタル形式で表示する指示計、あるいは調節計(指示計+制御機能)、記録計など、盤(パネル)に取り付ける機器を指します。パネル計器を取り付けた盤の例は こちらに掲載されています。
ファクトリーオートメーションを使う機械産業は、部品をねじ止めなどで組み立てて製品を作っていきます(だから組み立て産業ともいいます)。測定信号は光電センサー、近接センサー、超音波センサーなどを使った接点信号、あるいはエンコードの回転信号が多く、操作は接点信号やインバータ、サーボなどへの回転数指令があります。
使用する制御用コンピュータはPLC(Programmable Logic Controller)と呼ばれ、大まかにはリレー回路をコンピュータ化した制御機器と言えます。
プロセスオートメーションとファクトリーオートメーションで産業用ネットワークの進み方が違っていたことは、「日本国内でのフィールドバスは最初から計装制御(PA:プロセスオートメーション)分野の人々は中心にIECとISAの場で仕様検討されてきた。FA(ファクトリーオートメーション)分野では、1982年に国際ロボット・FA技術センター(IROFA)内にフィールドネットワーキンググループが発足するまでは、本格的にFAニーズを検討してIEC/ISA仕様に反映する場が存在していなかったようである」※2との春木氏の説明からも分かります。
なお、春木氏の説明では、「IROFAでの検討開始が遅れた理由は、これまで国際的FA-LAN仕様であるMAP(Manufacturing Automation Protocol)活動にプライオリティをおいてきたためである」※2とされています。
※2…日刊工業新聞社 雑誌「オートメーション」1993年 第38巻第10号「FAから見たフィールドバス」オムロン株式会社 春木嵩信氏
ただし、筆者は、ファクトリーオートメーションではPLCと現場機器で取り合う信号の種類として接点信号が多く使われていたことが、ファクトリーオートメーションでのフィールドバスの検討を遅らせた原因と考えています。
プロセスオートメーションのDCSが現場機器と温度や流量などのアナログ的な信号を16ビットあるいは32ビット長のデータで取り合うのに比べて、接点信号は単に1ビットのON/OFF信号の取り合いですので、ネットワーク化することへのメリットを見つけるのが難しかったと思われます。
この点については今後の説明とし、次回はプロセスオートメーションで使われる産業用ネットワークのオープン化の歴史について記載します。
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