本連載では、産業用ネットワークのオープン化の歴史を紹介します。今回からは、フィールドバスのオープン化について説明します。まずは、改めてフィールバスとは何かについて考えます。
本連載の第1回で説明したMAP(Manufacturing Automation Protocol)はマーケットに普及しませんでしたが、「工場で稼働する機器を接続し、データなどを自由にやりとりしたい」というオープンネットワークへの期待はなくなりませんでした。
前回も掲載した図1「ISO/CIMモデルのハイアラーキシステムイメージ」を見ていただくと、CIM(Computer Integrated Manufacturing)モデルのプラントレベルで工場幹線LANとされるフルMAP、セルレベルで使われるミニMAPの下のステーションレベルに「フィールドバス(H2)、ME-NET」、イクイップメントレベルに「フィールドバス(H1)、JEMAネット」という記載があります。
今回と次回は、MAPより下の階層に当たるこれらのネットワークのオープン化について説明します。
これらの階層のネットワークのオープン化の歴史について説明する前に、前提知識としてステーションレベルとイクイップメントレベルをつなぐネットワークに対する要件の概略を説明します。
CIMモデルのイクイップメントレベルとステーションレベルは、CIM6階層レベルの下位2層、つまり製造現場に近いところに位置します。
イクイップメントレベルには通常、温度計、圧力計、エンコーダー、接点スイッチなどの測定器(センサー)やモーター、バルブなどの操作機器(アクチュエータ)、いわゆる現場機器が位置します。そして、ステーションレベルにはPLC(Programmable Logic Controller)やDCS(Distributed Control System)などの制御機器(コントローラー)があります。
オートメーションの構成を見ると、現場の測定器で検出した測定信号は制御機器に送られ、制御機器で演算された結果が操作機器に操作信号として伝達されるという流れになります。この信号の流れは、オートメーションの基本であり、デジタル通信が導入される前からも行われていました(図2)。
例えば、石油精製などの工場で利用されるアナログ信号の流れを見ると、古くは空気信号(当時は0.2~1kgf/cm2、現在の20~100kPa)を使って、測定値と操作値の伝達を行っていましたし、1970年代はじめからは電気信号(4~20mA、1~5VDC)を使った信号伝送が主体となりました。接点信号の場合ですと、電圧、無電圧、トランジスタなどいくつかの信号レベルの種類がありました。
イクイップメントレベルとステーションレベルの間でネットワークを使うと、これらのアナログ信号、接点信号の取り合いをデジタル通信に置き換えることになりました。この「置き換える」という考えは重要でした。
実はMAPの場合は、アプリケーションにあるMMS(Manufacturing Message Specification)において下記のような機能をオープンな環境で実装できるよう仕様が決められていました。
イクイップメントレベルとステーションレベル間で求められる機能では、そのような複雑な機能の実現ではなく、データ通信が置き換えとなる変数の読み出し、書き込み主体(それだけではないのですが)の機能となることが明確だったのです。
さて、再度「ISO/CIMモデルのハイアラーキシステムイメージ」の図1を見てみると、イクイップメントレベルとステーションレベル間のネットワークとして、「フィールドバス(H1)、JEMAネット」という名称が記載されています。さらに、「フィールドバス(H2)」という名前も見えます。これから後の誤解を避けるため、ここで「フィールドバス」という言葉について説明します。
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