富士経済は、塗料やインキ、接着剤などの希釈用や、樹脂や医薬/農薬の反応溶媒、半導体をはじめとした電子材料などで幅広く採用される溶剤の国内市場に関する調査を「溶剤市場の全貌とリサイクル関連技術実態総調査 2025」にまとめた。2024年の同市場はナフサ価格の高騰に伴う値上げがあったため前年比1.6%増の3538億円となる見込みだ。
富士経済は2025年2月6日、塗料やインキ、接着剤などの希釈用や、樹脂や医薬/農薬の反応溶媒、半導体をはじめとした電子材料などで幅広く採用される溶剤の国内市場を調査し、その結果を「溶剤市場の全貌とリサイクル関連技術実態総調査 2025」にまとめたと発表した。
この調査では、炭化水素系溶剤5品目、アルコール系溶剤2品目、グリコールエーテル系溶剤6品目、エステル系溶剤3品目、ケトン系溶剤3品目、アミン系溶剤3品目、ハロゲン系溶剤2品目、その他溶剤1品目について最新の動向をまとめ、将来を展望した。また、環境保全の観点から関心が高まるバイオ原料製品や廃溶剤のリユース/リサイクルについて、商流や技術動向、品目別の対応動向をまとめた。
溶剤市場の全貌とリサイクル関連技術実態総調査 2025によれば、同市場は近年、主な用途である塗料やインキの生産量減少に伴い、ケトン系や炭化水素系、エステル系といった主要な溶剤の需要が緩やかに減少しているため、各溶剤の市場規模は横ばいから微減となっている。半導体やリチウムイオン二次電池向けが伸びているアミン系やアルコール系、グリコールエーテル系の溶剤は堅調に拡大している。
2024年の同市場はナフサ価格の高騰に伴う値上げがあったため前年比1.6%増の3538億円となる見込みだが、数量ベースでは前年を下回るとみられる。
今後、同市場はほぼ横ばいから微減で推移し、2028年は2024年の見込みと比べて0.7%減の3514億円になると予測されている。引き続き、半導体やリチウムイオン二次電池向けでアミン系、グリコールエーテル系などが堅調に伸び、これらは単価が高い高純度品であるため、市場は数量ベースよりも安定して推移すると予想される。
アミン系はN-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)を対象としている。リチウムイオン二次電池や半導体向けが増加しているNMPが堅調に伸びており、DMFとDMACもポリイミド(PI)反応溶媒などで使用され、安定した推移が予想される。
グリコールエーテル系は用途によって動きに違いがある。メチセロやブチセロ、ブチカビといった主に塗料や洗浄剤向けの溶剤は安定した需要があるものの、今後は横ばいから微減が予想される。一方、半導体向けで高純度品の需要が伸びているプロピレングリコールモノメチルエーテル(PM)やプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PMA)は半導体産業の拡大が追い風になるとみられる。
炭化水素系やケトン系、ハロゲン系は環境負荷や人体への影響が大きい製品が多く、これらは環境対応や作業者の安全管理が進む中で市場拡大は難しいとみられる。ただ、環境面や安全面に配慮した製品への切り替えは既に進んでいるため今後は大きな落ち込みはなく、用途先の需要により横ばいから緩やかな減少が予想される。
バイオ原料を用いた製品の開発や、廃溶剤を原料とするリサイクル/リユース品などの需要が拡大しつつある。特に半導体やリチウムイオン二次電池では高純度品が使われるため、これらを再生するリサイクルメーカーの動向にも注目が集まっている。高純度品では、これまで一般的であったダウンリサイクル(高純度品をより純度の低い溶剤としてリサイクルする)に加え、半導体用途で回収した再生品を、再び半導体向けに供給する水平リサイクルの取り組みも進んでいる。
NMPは、リチウムイオン二次電池(液式)や半導体などの電子材料向けと、ワニス材料やポリフェニレンスルフィド(PPS)反応溶媒といった工業用に大別される。2021年以降、リチウムイオン二次電池向けの急速な需要拡大により需給が逼迫(ひっぱく)したことから市場全体で価格が高騰し、リチウムイオン二次電池や半導体向けは価格が高止まりしている。
電子材料向けと工業向けのNMPはともに電動車(xEV)の生産動向に影響を受け、国内のxEV生産台数の増加に伴い市場は拡大を続けるとみられる。
ただしNMPは近年、生殖毒性に対する懸念から、欧州を中心に規制が強化されつつある。リチウムイオン二次電池においてもNMPを使用しない工法や水系バインダーの適用に向けて研究開発が進められているが、製品の安定性や品質の点でNMPを用いる現行の工法には及ばないため、当面は採用が続くとみられる。
環境対応としては、リチウムイオン二次電池向けのNMPで高度なリサイクルシステムが構築されている。製造工程内で発生するNMP廃液の回収率は90%を超え、リサイクル品は新材よりも低価格で流通している。
PMとPMAはともに、塗料やインキといった工業用と半導体をはじめとする電子材料向けが主な用途である。工業用は市場が成熟しているため、安定した需要があるものの成長性は低く、今後は半導体向けの成長が市場をけん引するとみられる。国内半導体メーカーの増産計画により、需要が増加することに加え、半導体では単価の高い高純度品が用いられることも市場を押し上げる要因になる。
PMは、電子材料向けでは半導体のレジスト溶剤やプリコート剤、エッジリンスとして用いられている。国内の半導体メーカーの増産に伴い需要が増加するとみられ、2028年の市場は2024年の見込みと比べて11.6%増の106億円と予測されている。
PMAは、半導体や液晶ディスプレイの洗浄液でも使用されていたが、2024年は需要先の大手日系メーカーの工場閉鎖に伴い、市場は前年を下回るとみられる。半導体では、PMAがプリコート剤やエッジバックリンスなどに使用され、溶解力の高さから精密洗浄剤として用途は広い。半導体向けのけん引で2025年以降、市場は拡大し、2028年の市場は2024年の見込みと比べて17.2%増の102億円と予測されている。
フッ素系溶剤はフルオロカーボン(フロン)の1種であり、フルオロカーボンは地球温暖化係数(GWP)が高いことやオゾン層破壊の観点から、一部の種類は規制対象になっている。
しかし、HFOはオゾン層破壊能力(ODP)やGWPが低い他、洗浄する部材の強度低下といった悪影響が少ないことが利点であるため、他のフッ素系溶剤であるHFCやHFEからの転換が進んでいる。今後はこれらに加え、炭化水素系や臭素系洗浄剤からの切り替えもあってHFO市場は拡大が続くとみられる。
現状、HFOは高価であるため、回収/リサイクルが求められており、新材を展開するメーカーも、ユーザーに対して回収装置を導入してのリサイクルを案内している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.