高い圧電性能を持つ窒化アルミニウム系薄膜を開発 下地層を活用:研究開発の最前線
産業技術総合研究所は、物質・材料研究機構との共同研究で、高い圧電性能を持つ窒化アルミニウム系薄膜を開発した。薄膜と同じ結晶構造を持つ下地層を用いることで、薄膜の圧電性能向上に成功した。
産業技術総合研究所は2025年1月21日、物質・材料研究機構との共同研究で、高い圧電性能を持つ窒化アルミニウム(AlN)系薄膜を開発したと発表した。AlNにスカンジウム(Sc)を添加したScAlNの薄膜で、結晶性と配向性を維持しながらSc固溶量を高め、薄膜の圧電性能向上に成功した。
これまで第一原理計算のシミュレーションにより、AlNに60〜70mol%のScを固溶させると圧電定数を最大で10倍以上にできると予測されていた。しかし、ScはAlNに混ざりにくく、高濃度にすると安定性が低下し、予測された圧電定数を得られないことが課題だった。
この課題に対し研究グループは、薄膜の下地層としてScAlNと同じ結晶構造を持つルテチウム(Lu)金属を用いることで、圧電性能向上を試みた。その結果、均質な配列でScAlN層が成長し、Sc固溶量を50.8mol%に高められることが分かった。
作製した薄膜の断面組織の電子顕微鏡写真より、Luの下地層を導入したScAlN薄膜ではウルツ鉱構造の結晶性や配向性が向上している様子が確認された。圧電定数は、他のAlN系圧電材料よりも高い35.5pC/Nに達する。
ScAlNはスマートフォンなどの弾性波フィルターに使用され、高周波通信に向けた弾性波フィルターの高性能化が期待される。また、AlNは距離センサーへの応用も検討されており、センサーの感度向上につながる材料としても発展性が見込まれる。
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