硫化水素を高濃度に含む廃水からメタンガスを回収するリアクターを開発:研究開発の最前線
国立環境研究所は、硫化水素を高濃度に含む有機性廃水から、メタンガスを回収するメタン発酵リアクターを開発した。微生物の活性を低下させる阻害物を、ばっ気装置を使用せずにバイオガスで除去できる。
国立環境研究所は2025年1月7日、硫化水素を高濃度に含む有機性廃水から、メタンガスを回収するメタン発酵リアクターを開発したと発表した。微生物の活性を低下させる阻害物を、ばっ気装置を使用せずにバイオガスで除去できる。
開発したのは、内部相分離型リアクター(Internal Phase Separated Reactor:IPSR)だ。二相式リアクターの前段と後段を上下に連結し、間をガスだけが通過できるようにした「半連結構造」を特徴とする。
同構造の「気体式液体仕切弁」により、下段のメタン生成相で発生したバイオガスだけが、無動力で上段の酸生成相に供給される。上段と下段の水は混合せず、上段は酸性(pH5.9以下)、下段は中性(pH7.5程度)とそれぞれの段を反応に最適なpHで管理可能だ。
廃水中の硫化水素を下段からのバイオガスで除去するため、メタン発酵プロセスを担う嫌気性微生物の活性が阻害されず、高濃度の硫化水素を含む有機性廃水から安定的にメタンガスを回収できる。
模擬廃水を用いた実験では、3万mgCODCr/Lの有機物濃度が、下段で約3000mgCODCr/L以下となり、90%以上の高い除去率で有機物を分解できることを確認した。3000〜6000mgS/Lの硫化物濃度は、バイオガスにより上段は700mgS/L以下に、下段は400mgS/L以下にまで低減。バイオガス中の硫化水素濃度は20万ppm(20%)を超え、廃水濃度換算で4000〜5000mgS/Lの硫化水素除去能力を示した。
国立環境研究所は今後、国内や海外の民間企業と連携し、実際の廃水を用いた実証試験に取り組む。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 2022年度の温室効果ガス排出・吸収量、日本は10年前から22.9%減
国立環境研究所は、2022年度における日本の温室効果ガス排出・吸収量が二酸化炭素換算で約10億8500万tとなり、2021年度比で2.3%減、2013年度比で22.9%減になったと発表した。 - 脱炭素社会と循環型社会の両立は一筋縄ではいかない
まだまだ暑いですね。1週間お疲れさまでした。来週は台風が接近してくるようです。台風といえばお盆期間を台風が直撃した際、NHKでは台風の影響を逐一テロップで流していました。鉄道などの情報が主でしたが、物流に関しても言及があったのが印象に残っています。 - 黄砂が急性心筋梗塞のきっかけに、慢性腎臓病があると特に発症しやすく
熊本大学は、国立環境研究所、京都大学らと共同で、急性心筋梗塞登録事業のデータを利用した環境疫学研究を行い、アジア大陸の砂漠域に由来する黄砂が心筋梗塞の発症と関連していることを明らかにした。 - 直噴エンジンは汚い!? 排気ガスに含まれるPM2.5の個数はポート噴射の10倍以上
国立環境研究所は、燃費が良好なことから新車への搭載が増えている直噴ガソリンエンジンが、従来のポート噴射ガソリンエンジンと比べて、排気ガスに含まれるPM2.5の個数が10倍以上に達するという実験結果を発表した。 - 路面電車と自動車が700MHz帯の相互通信で衝突防止、マツダなどが実証実験
マツダと東京大学生産技術研究所、広島電鉄、交通安全環境研究所の4者は、路面電車と自動車の間で700MHz帯を使った相互通信を行うことにより、衝突事故を防止できる安全システムの実証実験を始める。