現実と仮想の境界を超える負荷を下げる、ソニーグループの映像制作技術:CES 2025
ソニーグループは、最先端テクノロジーの展示会である「CES 2025」で、長期ビジョン「Creative Entertainment Vision」をテーマとし、空間コンテンツ制作支援ソリューション「XYN」など、保有技術を組み合わせた映像制作支援技術を紹介した。
ソニーグループは、最先端テクノロジーの展示会である「CES 2025」(2025年1月7〜10日、米国ネバダ州ラスベガス)で、長期ビジョン「Creative Entertainment Vision」をテーマとし、空間コンテンツ制作支援ソリューション「XYN(ジン)」など、保有技術を組み合わせた映像制作支援技術を紹介した。
リアルとバーチャルの境界負荷を下げる「XYN」
ソニーグループでは、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」をパーパスとし、ゲームや映画、音楽、アニメなどさまざまなコンテンツ展開と、テクノロジーによりそれを生み出すクリエイターのサポートを行っている。今回のCESでは、コンテンツの新たな展開を発表するとともに、これらを支える新たな技術を紹介した。
新たに発表したソリューションの1つが、空間コンテンツ制作支援を行うソフトウェアとハードウェアが統合されたソリューション「XYN」だ。XYNは、これまでソニーグループで培ってきたイメージング、センシング、ディスプレイなどの独自技術を、3DCG制作環境に最適化したもので主に3つの技術で構成されている。
1つ目がモーションセンシングを、より高度で簡単に行える「XYN Motion Studio」だ。体に装着し動きをセンシングするモーションセンシングツールとしては以前から「mocopi」(6個セット)を展開していたが、XYN Motion Studioは、このmocopi12個と連携し、独自アルゴリズムによるモーション自動補間機能や、自動タグ付け機能などにより、簡単にモーション映像を作成できるWindows版PCアプリケーションだ。2025年3月下旬から提供を開始するという。
CES会場では、実際にmocopiを付けたアクターがさまざまな動きをし、それがリアルタイムで映像内に反映され、キャラクターがリアルに動く様子が紹介された。また、モーションモデルとモーションモデルの間のつなぎの動作をXYN Motion Studioが自動で補間して作成する様子などもデモした。
体の12カ所にmocopiを装着し高精度で体の動きを把握(左)し、それをリアルタイムで映像内に取り込むことができる(右)、XYN Motion Studioでモーションの間を自動で補う機能なども備えている[クリックで拡大]
ソニー インキュベーションセンター XR事業開発部門 事業企画部 マーケティング課 統括課長の別府大輔氏は「映像制作の現場でも作業量の増大と人手不足で悩むケースが増えている。最終的な作品の前にもプレビズなどクリエイターは何度も何度も映像を作る必要がある。高品質が求められない場合はこれらを簡単に補えるツールを使うことで、作業効率を高め、作業期間を短縮できる」と価値について述べている。
2つ目が「XYN空間キャプチャーソリューション」だ。これは、ミラーレス一眼カメラで撮影した画像と独自アルゴリズムを用いて、現実の物体や空間から高品質でフォトリアルな3DCGアセットを作るソリューションで現在開発中だ。通常の2次元カメラから3次元の物体をキャプチャーするためには、複数回、確度を変えて撮影する必要があるが、これらをモバイルアプリによってガイドすることで簡単に高精度の3DCGモデルを作り出すことができることが特徴だ。「全ての物体を3DCGで一から作ることは大変だ。既に物体としてあるものはキャプチャーで取り込むことで、作業期間を低減できる」と別府氏は語っている。
3つ目が現在開発中のヘッドマウントディスプレイ(HMD)「XYN Headset」だ。4K OLEDマイクロディスプレイやビデオシースルー機能を搭載し、直感的な空間コンテンツ制作に対応する。CESでは映像制作領域での活用を訴えた。3D制作ソフトウェアへの対応を予定しており、Sony Pictures Animationとの実証実験なども行っているという。映像制作領域だけでなく、XYNのこれらの仕組みは、CADデータの制作や確認など、工業デザイン分野での活用なども可能で「それらの領域での提案は別で行っていく」(別府氏)としている。
乗り物を使った撮影の負荷を大きく下げるオールインワンソリューション
XYNに加えて、新たな映像制作ツールとしてソニーグループがCES 2025で出展したのが「PXO AKIRA(ピクソ アキラ)」だ。PXO AKIRAは、モーションプラットフォーム、ロボットカメラクレーン、LEDビジョン、レーシングシミュレーターを組み合わせ、車両や航空機など乗り物の動きを撮影することを可能とする画期的なプラットフォームだ。LEDビジョンに映した映像とそれに合わせて乗り物を動かすモーションプラットフォーム、カメラクレーンなどを同期制御することで、あたかも実機で撮影しているかのような映像を360度自由な角度で撮影できる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 3Dモデリングで“作りすぎ”解消へ、アパレルDXへの取り組み
ファッションワールド東京(2021年3月23〜25日、東京ビッグサイト)において、FMB 代表取締役の市川雄司氏が登壇し、「『3Dモデリング』がもたらすアパレルDXの未来」をテーマに基調講演を行った。本稿ではその内容を紹介する。 - 失敗するなら早めに――「アナ雪」「ベイマックス」をヒットに導いたディズニー式カイゼン
オートデスク主催のユーザーカンファレンス「Autodesk University Japan 2015」において、ディズニー長編アニメ「アナと雪の女王」や「ベイマックス」の制作に携わった米ウォルト・ディズニー・アニメーションズのイアン・クーニー氏が登壇。ディズニーがアニメ制作で重要視する“プレビジュアライゼーション”について語った。 - 遠隔地でもリアリティーを、4K OLEDでの臨場感と低遅延を実現するVR HMDシステム
ソニーグループは2021年12月7日、同社が開発中の技術を紹介する「Sony Technology Day」をオンラインで開催。その中でOLED(有機EL)マイクロディスプレイと低遅延HMDシステムの組み合わせによる、VRによる体験共有システム技術を紹介した。 - コロナ禍で加速するライブ中継の革新、ソニーのスイッチャーはなぜクラウド化したのか
2年ぶりのリアル開催となった「Inter BEE 2021」で注目すべきトレンドになったのが、従来ハードウェアでしか考えられなかった映像切替装置である「スイッチャー」について、大手各社がほとんど同時ともいえるタイミングでクラウド化に踏み切ったことだろう。その1社であるソニーのクラウドスイッチャー「M2 Live」の開発者に話を聞いた。 - ソニーのドローン「Airpeak S1」が構成パーツを披露、ステレオカメラ5台搭載
ソニーグループは、「Japan Drone 2021」において、2021年9月発売予定の業務用ドローン「Airpeak S1」を披露した。国産ドローンとしてハードウェアを独自開発しており、高い運動性能や耐風性能、高度な制御システムに加え、小さな機体サイズにフルサイズミラーレス一眼カメラ「α」が搭載可能であり、プロ映像制作向けに展開する方針だ。 - 1000以上のパーツで頭部の解剖学的構造を精巧に再現した3D CGモデルを無償提供
東京大学は、ヒトの頭部を精巧に再現した3D CGモデルを開発し、専用のWebページで無償提供を開始した。コンピュータグラフィックス技術を用いた3D CGモデルにより、脳神経外科医の解剖学的知識を可視化した。