船を知らなかったグリッドが“AIで海事を拡大”できた理由:船も「CASE」(3/3 ページ)
現在、海事関連システム開発ベンダーとして着実に業績を伸ばしているグリッド。しかし最初は、船の世界を知らない中で配船システムを開発しており、そこではさまざまな苦労があった。同社の導入実績と経過を通して、海事関連業界におけるAI利活用を含めたICTシステム導入の状況と現場の反応の変化を見ていこう。
船の現場にICTを導入する困難とは
海運業界でのICTやAI導入における最大の障壁は、ICTに対する現場スタッフの“抵抗感”だという。これに関して宮本氏は「ユーザー船社の業務プロセスを把握し、必要最小限の機能に絞ったソリューションから提供することが重要」と語る。ICTに慣れていない企業や現場に受け入れてもらえるには、過剰な機能は避け、実際の業務効率向上に注力するアプローチが必要だという。
もう1つ、導入で成功するために重要なのが、段階的な導入と導入効果の早期提示だ。4〜6カ月でプロトタイプを作成し、早期に導入効果を示すことでユーザーの理解と受け入れが促進できるという。また、経営層には費用対効果を、現場には具体的な業務変更点を説明するなど、対象に合わせたコミュニケーションも効果的と宮本氏は説明する。
副産物的な効果だが、グリッドによる開発の過程でベテラン従業員の経験やノウハウをデジタル化し、組織全体で共有可能にする取り組みもユーザーから評価されることが多いという。「属人化された知識の(開発過程で明らかになった“言語化”による)可視化は、AI化の大きなメリットの1つ」(宮本氏)。
グリッドの強みとして、これまでの開発経験から海事業界に特化した知識を持つことも挙げられる。その知識のおかげで海事関連企業の顧客ニーズをより的確に理解でき、効率的なソリューション提案が可能になるという。また、これまでの開発経験で培った標準化されたヒアリング手法を用いることで、プロジェクトの立ち上げを迅速化している。
このような開発ノウハウの継続的改善が、新規で参入し、かつ、比較的閉鎖的で未経験の参入が難しいといわれる海事関連業界でグリッドが事業を継続して拡大している大きな理由だろう。これは海事関連に限らず多くの新規参入を計画している企業にとっても参考になる事例といえるのではないだろうか。
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