検索
連載

水中ドローンが空のドローンとは違う理由と目指す場所船も「CASE」(1/3 ページ)

国土交通省主催による海域におけるドローンの利活用に関するセミナーが行われた。国交省が沿岸や離島地域の課題解決に向けて進めているAUVやROVを用いた実証実験の報告とともに、日本の沿岸や港湾で、いわゆる“海のドローン”を運用するための現時点での問題点やその解決に向けた取り組みを紹介した。

Share
Tweet
LINE
Hatena

 国土交通省主催による海域におけるドローンの利活用に関するセミナーが2024年3月5日、東京都内で行われた。このセミナーでは、国交省が沿岸や離島地域の課題解決に向けて進めているASV(小型無人ボート)やAUV(自律型無人潜水機)、ROV(遠隔操作型無人潜水機)を用いた実証実験の報告とともに、日本の沿岸や港湾で、いわゆる“海のドローン”を運用するための現時点での問題点やその解決に向けた取り組みを紹介した。

 この記事では、水中ドローン利活用の本格化に向けた産業創出に関する基調講演と、問題点の抽出やその解決に向けた取り組みを紹介したパネルディスカッションの概要を取り上げる。

 基調講演に先立って国土交通省 総合政策局 海洋政策課 課長補佐の千葉潤氏は、海のドローンをメインデバイスとする“次世代モビリティ”の活用推進に向けた国土交通省の取り組みについて説明した。

 千葉氏は、沿岸離島地域の過疎化や高齢化、高度成長期に整備されたインフラの老朽化などの課題に対し、海のモビリティ技術(ASVやAUV、ROVなど)の活用をその解決策として提示する。「こうした海域利用は非常に人手を必要とする作業形態をとっている。これを受けた解決ツールとして海の次世代モビリティに着目したのが国交省における取り組みの出発点となっている」(千葉氏)

 千葉氏は、ASV、AUV、ROVといった海のドローンがそれぞれ特色を持っていて、それらの利活用には需要と技術の“マッチング”が必要と述べ、その取り組みとして国交省は実証実験を進めていると説明した。


国交省では技術開発だけでなく、その技術を利活用したいユーザーと開発会社、水中ドローンサービス提供企業とのマッチングを進めることで産業の創出も目指している[クリックで拡大] 出所:国土交通省

首相官邸ドローン墜落の類似事案を起こさないために


日本水中ドローン協会事務局次長の大手山弦氏

 基調講演には日本水中ドローン協会 事務局次長の大手山弦氏が登壇した。大手山氏は、海のドローン利活用における現時点の課題として、「人材育成」と「産業創出」を挙げている。

 日本水中ドローン協会は、人材育成、水中事業の情報発信、そして産業を普及していくために必要なネットワークの構築を目的としている。その主軸と置いているのが人材育成だ。そのために、全国55カ所に同協会の認定ライセンス「水中ドローン安全潜航操縦士」を取得できるカリキュラムを設け、2019〜2024年で1600人がライセンスを取得したという。このカリキュラムは水中での安全潜航を重視した内容で、「決してそれですぐ運用ができるわけではない」(大手山氏)というものの、水中ロボットや水中ドローンの活用をスタートできる人材として、安全性や基本的な技術、知識を学ぶことに主眼を置いている。

 大手山氏は、「空と水中は全く別のドローン」と主張する。空のドローンでは航空法に定められた免許制度が始まっており、飛ばすためには免許が必要だが、そのために「産業成長が非常に遅れてしまった現実もある」としている。2015年に首相官邸で起きたドローン墜落事案による急速な法整備の影響で今の免許制度につながったこともあって「気軽に空のドローンを飛ばせなくなっている」(大手山氏)という背景もあるという。

 水中ドローンで同様の状況とならないように、ライセンスとその取得のためのカリキュラムを設けたと説明する。「空のドローンではモラルやマナーがまだ成熟していないときに墜落が起きてしまったこともあって、これから運用したい人に弊害が出てしまったという背景がある。あらかじめ安全に運用ができる人材を育成していけば産業創出に寄与できる人材が増やせるという考えから、カリキュラムを実施している」(大手山氏)

 なお、国交省の千葉氏はセミナーの冒頭演説で「水中ドローン」を「ASV、AUV、ROV」と定義しているが、日本水中ドローン協会では水中ドローンを「基本的には人の手で持ち運べる小型のROV」と位置付けている。


日本水中ドローン協会はROVの普及を主な目的としている[クリックで拡大] 出所:日本水中ドローン協会

 大手山氏は、水中ドローンの普及だけでなく運用上の課題についても人材育成が欠かせないと強調する。イベントの体験会などで水中ドローンの操縦が比較的簡単にできてしまうのに対して、実際の現場では運用が難しい面があるという。「水中に1基潜らせるだけでも船体は見えなくなるので、カメラの情報もしくはセンシングの情報を活用して、頭を使って運用しなければいけない」(大手山氏)

 このような事情から、操縦技術に加えて専門知識を備えていないと水中ドローンは運用が難しく、このことが水中ドローンの性能とユーザーが水中ドローンでやりたいこととのギャップが生じる理由だと大手山氏は指摘する。「例えば水中測位装置は基本的に音波を使うので、空のドローンで利用できるGPSほどの精度はでないため測量としては使えない。ユーザーは測量に使いたい、というギャップも現実的にある」(大手山氏)

       | 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る