現代の名工が作る機械式腕時計がミネベアミツミ製極小ベアリングを採用した理由:メカ設計ニュース(2/2 ページ)
ミネべアミツミは新設計の極小ボールベアリングが、大塚ローテックの機械式腕時計「5号改」に採用されたことを発表した。
新たにボールベアリングを開発、わずか数人の最上級技術者が組み立て
ミネベアミツミ 事業執行役 軽井沢TC センター長の田口昌幸氏はボールベアリングの開発、生産に当たって「片山氏の要求に沿った仕様諸元の検討から製造、組み立てまで日本国内で完結するメイドインジャパンにこだわり、本社工場である軽井沢工場(長野県御代田町)で生産している。このクラスのベアリングは、部品製造だけでなく、組み立てにも高度な技術が必要とされ、社内でも数人しかいない最上級の技能者が5号改の中で動くベアリングの機能性をイメージしながら、絶妙な感触による手組みにて製造している。DDL-008は時間を正確に刻むために求められる高い精度とともに、時計内でボールベアリングの存在感を感じてもらえるように視覚的な工夫に加え、剛性を持たせる工夫を施した5号改専用に開発したものとなっている」と語る。
ボールベアリングはミネベアミツミの祖業であり、70年以上自社内で磨き続けている超精密加工技術に支えられている。加工用刃物、治工具、生産設備などは社内で内製している。外径22mm以下のボールベアリングを製造するボールベアリング事業部では日本やタイなどグローバルで11の製造拠点を持ち、軽井沢工場はマザー工場に当たる。
「(DDL-008は)世界最小に続く小さなボールベアリングとなり、内部空間が小さい中で時計の性能を満足させ、かつ生産性を考慮した内輪、外輪のボール軌道溝、ボール保持器の設計諸元を検討し、ベアリング形状に落とし込んでいった。ベアリングはサイズが小さくなるほど寸法公差や隙間の影響が相対的に大きくなり、精度や寸法管理がシビアになる。内輪、外輪を精密研磨する砥石や測定器、組み立て治具も専用のものを用意した。外径が2.5mmと決まっている中で内径を大きくすると入れられるボールも必然的に小さくなる。ただ、そうするとベアリングとしての剛性が落ちるので、ボールの数、保持器の厚さなどで極限まで剛性を持たせる工夫をした。部品加工、組み立て、製品保証検査は非常にチャレンジングだったが、世界最小ボールベアリングで得た経験とノウハウにより、スピーディーに対応することができた」(田口氏)
ミネベアミツミ 代表取締役 会長 CEOの貝沼由久氏は「われわれは祖業でもある外径が22mm以下のボールベアリングを月間3億個製造している。通常、われわれの部品は陰に隠れて、縁の下の力持ちのような存在ではあるが、5号改では常に見えるところに、大きな役割を担う、なくてはならない製品としてボールベアリングをお使いいただいている。腕時計にベアリングを使用する場合はサイズが小さいことはもちろん、何十年とオーナーに愛されて時を刻んでいくためには高い強度も必要だ。デザイン、技術、情熱、こだわりが詰まったオンリーワンの時計を作るために、オンリーワンの部品が不可欠ということで、採用された2種類のボールベアリングは極小ながら超精密で高耐久性、高品質性を兼ね備えている」と話す。
5号改の価格は74万8000円(税込み)で、3月1日にオンラインでの一般抽選販売(日本国内のみ)を開始する予定となっている。
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