現代の名工が作る機械式腕時計がミネベアミツミ製極小ベアリングを採用した理由:メカ設計ニュース(1/2 ページ)
ミネべアミツミは新設計の極小ボールベアリングが、大塚ローテックの機械式腕時計「5号改」に採用されたことを発表した。
ミネべアミツミは2025年1月15日、東京都内で記者会見を開き、新設計の極小ボールベアリングが大塚ローテックの機械式腕時計「5号改」に採用されたことを発表した。
サテライトアワー機構搭載の腕時計の機能部品に
大塚ローテックはプロダクトデザイナーだった片山次朗氏が創業した時計ブランドだ。片山氏は“時計界のアカデミー賞”といわれる「ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ(GPHG) 2024」のチャレンジ部門(3000スイスフラン以下の時計部門)においてグランプリを受賞した他、厚生労働省の「現代の名工(卓越した技能者)」にも選ばれている。
片山氏はもともと関東自動車工業でトヨタ自動車のカーデザインを手掛けた後、独立してプロダクトデザイナーとして活動。その後、卓上旋盤を手に入れたことをきっかけに時計作りを始めることになり、2012年に大塚ローテックを創業した。大塚ローテックの大塚は、工房のある場所の地名にちなんでいる。
「旋盤加工の練習のつもりで見よう見まねで腕時計の部品を作っていたが、あれこれ作っているうちに機械式腕時計の仕組みやデザインも分かるようになり、1つ2つと自宅の工房で製作するようになった。5番目に作った時計から販売を始め、欲しいと言ってくださる方の注文を受けているうちにそれが本業になっていた。5号改は順番としては8番目の時計だが、初めて販売した5号のケースの形など、デザインの流れを受け継いだモデルという位置付けで5号改とした」(片山氏)
5号改は、衛星のように周回する数字盤と、固定された目盛りが組み合わさって時間を刻むサテライトアワー機構を搭載している。時計製造メーカーである東京時計精密によれば、5号改は同機構を搭載した初の国産腕時計となっている他、時ディスク自体をピンやボールベアリングに当てて切り替えるサテライトアワー機構の世界初の機械式腕時計になっているという。
ギネス認定の世界最小のボールベアリングなど採用
「5号改はサテライトアワーと呼ばれる表示機構を使っているのが特徴であり、その機構を持った機能部品の集合体としてデザインした。サテライトアワーは時間表示の3つの小さなディスクを衛星のように回転させて、分表示の目盛りと合わせて時刻を示す。そのメカを構成するギアやばね、ディスクやローラーベアリングなどの機構部品をむき出しにして、時刻表示装置としてケース内に収められるような時計のデザインを目指した」(片山氏)
今回、世界最小の量産可能なボールベアリングとしてギネス世界記録に2015年に認定されている、ミネベアミツミのボールベアリング「DDL-004」(外径1.5mm、内径0.5mm、幅0.65mm、ボール径0.25mm)を、駆動確認および秒表示を行う秒ディスクの中心の5時位置に使用している。
また、回転による表示時間の数字切り替えを行う時ディスクのガイドローラーとして、ミネベアミツミが新たに開発した極小ボールベアリング「DDL-008」(外径2.5mm、内径1.0mm、幅0.8mm、ボール径0.3mm)を使用している。
「昔、ラジコンに凝っていた時期があり、その頃の私にとってボールベアリングはお小遣いで買うには価格が高く、あこがれのチューンアップパーツだった。時計業界では軸受の部分に赤い人工ルビーを使うことが多いが、5号ではあえて高精度の印として感じているボールベアリングを用いて、それを目立つようにデザインした。5号改でも、同じようにボールベアリングがデザインの大きな要素であり、サテライトアワー機構の時間表示を切り替える重要な機能部品としても使用している」(片山氏)
大塚ローテックを生産面でサポートしている東京時計精密の創業者である浅岡肇氏が、過去にミネベアミツミのボールベアリングを腕時計に採用したことがあり、そのつながりを頼って片山氏がミネベアミツミに相談を持ち掛けた。「スペースが小さく、外径が2.5mm以上のものは使えない。かつ内径もねじ止めをするための軸であり、剛性が必要だった」(片山氏)。
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