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実験室で成功した化学反応を工業規模で再現する難しさとは?はじめての化学工学(2)(2/2 ページ)

化学工学は、実験室規模で確立した化学的プロセスを産業規模で実現するための工学分野です。規模が大きくなると不都合が生じやすく、ビーカーやフラスコとは異なる工業的に最適化された構造をしています。今回はプラントの主要な構成要素である槽、塔、熱交換器を紹介します。

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化学処理は塔で行われる

 蒸留や吸収、抽出といった化学処理は、工業的には「塔」で行われます。塔は高さ数十メートルにも及ぶ縦長の円筒形装置です。液体や気体を塔の上部と下部から通して接触させます。「蒸留」で使うときは蒸留塔と呼ばれ、他にも吸収塔や抽出塔などがあります。

 蒸留塔を例に、塔の役割を解説します。塔の下段では、液を加熱して蒸発させることで気体が塔の上部へ流れていきます。対して上段から中段にかけては液体を下段に落とす形で流していきます。塔内では加熱蒸気が液体と接触することで、気体から液体に熱を伝えながらより沸点の低い成分のみが気体に変わります。

 この気体が上部に流れる過程で気液接触を塔内で何度も繰り返せるような構造になっています。例えばトレイと呼ばれる隙間の空いた仕切りが設けられており、トレイで気液接触が効率的に行われます。最終的には沸点の低い成分は上部に、沸点の高い成分は下部に高純度で集まるよう分離されます。

蒸留塔内のイメージ
蒸留塔内のイメージ[クリックで拡大]

熱交換器で効率的な加熱冷却

 スケールアップで大きく効率が下がるのは加熱冷却の要素で、化学工学的に言うと「伝熱」です。伝熱に必要なのが伝熱面積で、つまり高温の流体から低温の流体へ熱を伝える表面積です。実験室では、ビーカーやフラスコをガスバーナーで直接加熱したり氷浴で冷却したりするイメージがありますが、産業規模で使用されるのが熱交換器です。熱交換器は、高温の流体から低温の流体へ効率的に熱を移動させる装置です。多数の細管を束ねた構造や、プレートを積層した構造など、さまざまなタイプがあります。

 実は実験室規模でも熱交換器は使われています。代表的なのがリービッヒ冷却器やジムロート冷却器です。環の内部が複雑な形状になっており、高温側と低温側の伝熱面積が増えるように設計されています。化学プラント用には金属製で作りやすく、強度が保証され、メンテナンス性があるような構造が採用されます。

工業化に伴う熱交換器の変化イメージ
工業化に伴う熱交換器の変化イメージ[クリックで拡大]

設備同士は配管でつなぐ

 実験室においてガラス器具同士は、摺りガラスになっている部分に挿し込むことで接続していました。プラントでは、これまで挙げた槽、塔、熱交換器をはじめとして、各装置は配管によって接続されています。配管は単なるつなぎではなく、原料や生成物、エネルギーの移動経路として機能します。配管の設計では、「流動」の計算を行って流体力学的な圧力損失を考慮した上で適切な配管径やバルブの種類/ポンプの性能が選定されます。



最後に

 実験室で成功した化学反応を工業規模で再現するには、多くの課題があります。そもそも機器の形状や材質が大きく異なることから、単純にサイズを大きくすれば良いわけではないことがイメージいただけたのではないでしょうか。次回からはプラントを設計するに当たり必要となる化学工学的な考え方を紹介していきます。

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筆者代表紹介

かねまる

プラント技術の解説サイト「ケムファク」を運営。大学院まで化学を専攻し、現在は化学メーカーの生産技術職に従事。


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