B型肝炎ウイルスがサルに感染しない理由を解明:医療技術ニュース
東京理科大学は、カニクイザルとヒトの胆汁酸輸送体(NTCP)の立体構造を解析し、B型肝炎ウイルス(HBV)の感染を左右するNCTPの構造的特徴を明らかにした。NTCP分子内の2つのアミノ酸が、HBV受容体として機能するかどうかを決定する。
東京理科大学は2024年12月3日、カニクイザルとヒトの胆汁酸輸送体(NTCP)の立体構造を解析し、B型肝炎ウイルス(HBV)の感染を左右するNCTPの構造的特徴を明らかにしたと発表した。横浜市立大学、京都大学、国立感染症との共同研究による成果だ。
HBVは、ヒトやチンパンジーには感染するが、アカゲザルやカニクイザルなどのサルには全く感染しない。今回の研究では、96.0%と高いアミノ酸相同性を示す、カニクイザルNTCP(mNTCP)とヒトNTCP(hNTCP)の構造を比較した。
クライオ電子顕微鏡構造や遺伝子変異導入、ウイルス感染、胆汁酸輸送、分子動力学シミュレーションなどを用いて解析したところ、preS1との結合で、NTCP分子内の主に2カ所がHBV受容体として機能するかどうかを決定していることが分かった。preS1は、HBVの表面タンパク質内にある領域のことで、宿主動物の肝細胞に存在するNTCPと結合することで細胞内に侵入してHBVに感染する。
決定を左右する部位の1つ目は、NTCPの胆汁酸トンネル入口に位置する158番目のアミノ酸だ。hNTCPは側鎖のないグリシンのためpreS1がぴったりはまるが、mNTCPは大きな側鎖のあるアルギニンで入口が狭いため、preS1との結合が妨害される。
2つ目は、NTCPの細胞外表面に位置する86番目のアミノ酸となる。hNTCPでは、長い側鎖のあるリシンがpreS1をNTCP細胞外表面に強固につなぎとめて結合を安定させる。mNTCPでは、側鎖が比較的短いアスパラギンのため、preS1の動的なゆらぎを抑える力が弱く、結合が不安定になる。
またhNTCPは、内因性基質の長鎖胆汁酸が存在すると、立体障害が生じてPreS1結合が妨げられることも分かった。
今回の研究は、ヒトと進化的近縁種のサルがなぜHBVに感染しないかの本質を明らかにしたもので、HBV感染メカニズムの解明につながることが期待される。
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