着床不全のメカニズムをマウスを用いて解明:医療技術ニュース
東京大学は、マウスの着床モデルを用いて、着床不全が起こる仕組みの1つを明らかにした。子宮内膜の上皮と間質のそれぞれのサイトカイン「Leukemia inhibitory factor」が協働して胚接着と胚生育を調節し、着床が成立する。
東京大学は2024年11月25日、マウスの着床モデルを用いて、子宮内膜の上皮と間質のそれぞれのサイトカイン「Leukemia inhibitory factor(LIF)」が協働して胚接着と胚生育を調節し、着床が成立することを示したと発表した。着床不全が起こる仕組みの1つを明らかにしたもので、不妊症の新しい診断法や治療法の開発につながることが期待される。
LIFは妊娠過程で重要な分子として知られており、ヒトを含むさまざまな動物種において着床期の子宮で高く発現している。特に胚接着前では上皮細胞、胚接着後には胚近傍の間質細胞で高発現することが分かっている。
今回の研究では、着床期子宮におけるLIFの機能を調べるため、子宮の上皮細胞層でのみLIFを欠損したLIF eKOマウスと、子宮の上皮細胞と間質細胞の両方で欠損したLIF uKOマウスを作成して解析した。
その結果、雌のLIF eKOマウスの妊娠成功率は正常なマウスの約5分の1に減少し、LIF uKOマウスでは完全不妊となった。
胚着床期の子宮を解析すると、LIF eKOマウスとLIF uKOマウスの両方で胚接着不全が起きており、子宮の肥厚は観察されなかった。LIF欠損子宮とその子宮に存在する胚における網羅的な遺伝子発現解析を実施したところ、LIFの有無が子宮上皮細胞で転写因子STAT3を介した遺伝子発現惹起(じゃっき)に寄与していることが明らかとなった。一方、胚の遺伝子発現にはほとんど影響を与えなかった。
また、胚接着前にLIF eKOマウスとLIF uKOマウスにLIF精製タンパク質(rLIF)を投与すると胚接着不全が改善され、LIF eKOマウスでは産仔数も改善した。一方、LIF uKOマウスでは産仔数は改善しなかった。
このことから、胚接着前の子宮上皮で発現しているLIFが胚接着に寄与し、胚接着後に間質細胞で発現するLIFはその後の胚生育に重要であることが示唆された。子宮内膜の3次元形態観察でも、LIF欠損子宮では正常子宮で見られる胚生育巣が形成せず、rLIFの投与によりLIF eKOマウスでは正常子宮と同様の上皮形態変化が生じる一方で、LIF uKOマウスではほぼ変化が認められないことが確認された。
LIFはヒトでも発現するため、今回マウスで観察された胚接着不全、胚生育不全がヒトの着床不全と関連している可能性が考えられる。
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