CAEの最新動向を5つのキーワードで読み解く:テルえもんが見たデジタルモノづくり最前線(8)(1/3 ページ)
連載「テルえもんが見たデジタルモノづくり最前線」では、筆者が日々ウォッチしているニュースや見聞きした話題、企業リリース、実体験などを基に、コラム形式でデジタルモノづくりの魅力や可能性を発信していきます。連載第8回は「CAEの最新動向」について取り上げます。
CAE(Computer Aided Engineering)は、直訳すると「コンピュータによる工学支援」となります。3D CADなどでモデリングしたデジタルデータ(製品形状)に、製品仕様/条件などを加え、コンピュータ上の数値計算により仮想実験を行うシミュレーション技術のことです。
実際にモノを作る前に、CAEでシミュレーションを行うことで、実験や試作回数、実機製作後の手戻りを減らすことができます。丈夫で安全なモノを製品として提供するために、CAEは重要なプロセスといえます。
製造業において、CAEの重要度は年々増しています。従来、CAEは主に強度解析や振動解析など、構造に関する解析に用いられてきました。しかし、近年では熱流体解析、電磁場解析、音響解析など、より幅広い分野でCAEが活用されるようになっています。製品開発の初期段階からCAEを活用することで、設計のフロントローディングや品質の向上、開発期間の短縮などが実現できます。
今回は“CAEの最新動向”について、筆者が調査した内容を紹介します。なお、CAEの基礎については、筆者の以前の連載記事を参考にしてください。
近年のCAEを語る上で欠かせない5つのキーワード
CAEの最新動向について、以下に示す5つのキーワードに着目して紹介していきます。
- MBD(モデルベース開発)
- マルチフィジックス解析
- クラウドCAE
- AI(人工知能)技術の活用
- デジタルツイン
1.MBD(モデルベース開発)
MBDは、シミュレーションモデルを中心とした開発手法です。従来の開発手法では、設計図や仕様書を基に試作品を作成し、実機試験を繰り返して改良を重ねていました。しかし、MBDでは、コンピュータ上に作成したモデルを用いてシミュレーションを行い、仮想的な環境で設計の検証や性能評価を行います。
MBDは、自動車、航空宇宙、家電、産業機械など、さまざまな分野で適用されています。特に、近年では、自動運転システムや電動化システムなど、複雑なシステムの開発にMBDが不可欠となっています。
最近のMONOistの記事では、ジェイテクトが軸受設計の効率化と信頼性向上に向けてモデルベース開発を進化させる取り組みを発表しています。設計プロセス全体を抜本的に見直し、初期検討から作図までをシームレスに完了できる設計基幹システムを開発するとともに、新開発の評価試験機によってシミュレーションにリアルとのギャップを反映させ、評価解析の信頼性も向上させるというものです。
2.マルチフィジックス解析
マルチフィジックス解析は、異なる物理現象(例えば、熱、流体、構造、電磁界など)が相互に影響を及ぼす状況をモデル化します。これにより、現実の製品挙動を高精度で予測することが可能となります。例えば、熱解析と構造解析を組み合わせることで、温度変化が製品の構造に与える影響を詳細に評価できます。
現実世界にあるモノは、たった1つの現象によって、その挙動や状態が決まるわけではありません。複数の現象の影響が複合的に絡み合って決まるため、現実世界で起きることを忠実に再現しようとすると、必然的にマルチフィジックス解析をする必要が出てきます。また、大きさの異なる対象物それぞれで起きる現象を複合的に扱うマルチスケール解析も行われています。
マルチフィジックス解析ソフトを提供する米Ansysは、2024年11月に“NVIDIA AIを取り入れたAnsysシミュレーションの実現”に関連し、物理ベースの機械学習モデルを開発するAIフレームワーク「NVIDIA Modulus」を、半導体マルチフィジックス用プラットフォーム「Ansys SeaScape」に統合し、AI駆動による半導体設計環境を提供することを発表しています。
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