ボルト締結体に作用できる許容繰り返し荷重:CAEを正しく使い疲労強度計算と有機的につなげる(17)(4/4 ページ)
金属疲労を起こした際にかかる対策コストは膨大なものになる。連載「CAEを正しく使い疲労強度計算と有機的につなげる」では、CAEを正しく使いこなし、その解析結果から疲労破壊の有無を予測するアプローチを解説する。連載第17回では「ボルト締結体に作用できる許容繰り返し荷重」について取り上げる。
ボルトが多数あるとき
“ボルトが2本になったら「ドカーン」と許容荷重が下がる”と説明し、読者の皆さんを不安にさせたかもしれません。では、ボルトの本数を増やしたら解決できるのでしょうか。調べてみましょう。図14に16本のボルトで固定されたブラケットを示します。
図15に第一主応力分布を示します。
図16に荷重時の応力と初期締結時の応力との差を示します。以前、応力振幅を求めるために、主応力同士の引き算をしてはダメと説明しましたが、図16の例では、ボルトは常に引張応力であることと、応力の方向がボルトの軸方向であることから、「まあ、よし」とします。引き算した応力の2分の1が応力振幅で、応力振幅が疲労強度を安全率(2[-])で割った値と一致するような荷重を求めました。8万5953[N]となります。これを16で割るとボルト1本当たりの許容繰り返し荷重となり、4775[N]とボルト2本(図8上段中央など)よりも小さくなりました。これが図1のEです。
図16を見ると、荷重を負担しているボルトとそうでないボルトがあることに気が付きます。会社員として勤めていたときは事務所でこのような光景をよく見掛けました。ボルトが疲労破断するとしたら、その対象は働いているボルトとなるのでこれが先に破断します。すると、その隣のボルトが働くようになります。そして、隣のボルトが破断すると、そのまた隣のボルトが働くことになります……。
プレスに使う金型のボルトがメンテナンス時に2、3本折れていることが分かり、脇から冷や汗がタラリとなって相談に来られた方がおりました。“たくさんのボルトを使っても許容繰り返し荷重が増えるわけではない”ことをご理解いただけたでしょうか。
次回は、LISAで疲労破断の有無を予測してみましょう。 (次回へ続く)
Profile
高橋 良一(たかはし りょういち)
RTデザインラボ 代表
1961年生まれ。技術士(機械部門)、計算力学技術者 上級アナリスト、米MIT Francis Bitter Magnet Laboratory 元研究員。
構造・熱流体系のCAE専門家と機械設計者の両面を持つエンジニア。約40年間、大手電機メーカーにて医用画像診断装置(MRI装置)の電磁振動・騒音の解析、測定、低減設計、二次電池製造ラインの静音化、液晶パネル製造装置の設計、CTスキャナー用X線発生管の設計、超音波溶接機の振動解析と疲労寿命予測、超電導磁石の電磁振動に対する疲労強度評価、メカトロニクス機器の数値シミュレーションの実用化などに従事。現在RTデザインラボにて、受託CAE解析、設計者解析の導入コンサルティングを手掛けている。⇒ RTデザインラボ
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