生産領域のDXに踏み出す三菱マテリアル 「ぎりぎりの現場」でどう改革を進めるか:製造マネジメント インタビュー(2/2 ページ)
Snowflakeは製品活用事例などを紹介するイベントを都内で開催した。本稿では、三菱マテリアル CDO DX推進部長の端山敦久氏による、同社のDX戦略についての現状と展望を紹介したセッションを、個別インタビューの内容と併せて紹介する。
改革テーマ数に対して足りない人材
以下では、MONOistによる端山氏へのインタビューの内容を抜粋して紹介する。
MONOist 貴社は2020年度からDX戦略を本格的に推進し始めました。背景について教えていただけますか。
端山氏 それまで当社では、事業部の要望、要件をヒアリングしたうえでスクラッチ開発したシステムを導入してきた。各事業部が必要とする機能はそろっているが、それだけではデジタルを使いこなす企業に競争力で及ばなくなっていく。
そこで2020年度に発表した中期経営戦略に初めて「DX」という言葉を盛り込んだ。ただ、当時は具体的な取り組みが固まっておらず、社内の人材での取り組みに限界があった。そのため、CDO(最高デジタル責任者)を外部から招き、社長や役員などと対話しつつ約20個の改革テーマを定めた。
しかし、実際に取り組もうとすると人材が足りない。中途採用に尽力するとともに、データサイエンス室やDX推進室を立ち上げるなど体制構築を進めた。データサイエンス室についていえば、当時データ分析の専門家は社内にいたわけではないが、必要だからまずは形から入ろうということで作った。設立当初は私が室長を兼務していたが、1年ほど時間をかけて人材確保することに成功した。併せてCIO(最高情報責任者)も招き入れ、2022年度までにDXの推進体制を整えた。
2023年度からは30個超の改革に取り組み始めている。ただやはり、DXのテーマの多さに対して人材不足感が慢性的にある。製造業なので蓄積データが多く、その点に興味をもって来てくれる人材はいるが、なかなか厳しい状況が続いている。
MONOist 社内でのDX人材育成はどのように取り組まれているのでしょうか。
端山氏 全社的なITリテラシー教育と高度なデジタル人材教育を両方進めている。ITリテラシー教育については国内拠点はおおむね実施できており、今後は海外拠点にも言語の壁を乗り越えて広げていこうと考えている。
高度なデジタル人材教育は参加者を公募制で募集しており、プロジェクト管理やITツール、統計解析、マテリアルズインフォマティクスなどのデータ活用について学べる。一方で、日々の業務と並行して受講することになるため、自部門の業務が忙しい若手だと参加しづらい面もある。そのため拠点長やマネジメント層に対しては、「業務調整してどんどん参加、チャレンジさせてほしい」と伝えている。
とはいえ、現場がぎりぎりの人数で日々の業務を回していることは確かだ。業務効率化をしたいがその時間が取れないという現場に対して、本社側でも優先順位を決めつつ支援をしている。現在、データサイエンス室の人員も半分ほどを各事業所の現場に向かわせている。もちろん支援側も人数に限りがあるので全事業所をカバーできないが、向かった先では成果が出ており、今後は事業所間での横展開に取り組む。
関連して、社員のデジタル化の取り組みを後押しする「DXチャレンジ制度」を設けている。日々の業務改善におけるデジタル化支援を目的としたもので、社員に資金や技術面でサポートを提供する。MMDXでは幾つもの改革テーマを設定したが、現場の改善ニーズはより細分化されている。そうした部分の支援を行っている。
データ活用を具体的な成果に結び付ける
MONOist 生産領域でのDXの現状と展望を教えてください。
端山氏 先ほど言ったように、当社では生産現場のシステムも必要に応じてスクラッチ開発で進めてきた。実績データは取得できるが、工場全体のモノづくりのやり方を変えていくには不足感がある。デジタル技術を活用したスマートファクトリーを実現する方向にシフトしていく必要がある。スマート化は歩留まりの改善やリードタイムの短縮にもつながるが、安心安全な工場を作るという意味でも大きな意義がある。
ただ、そう簡単にはいかない。例えば、生産ライン単位で検査自動化を進めて、検査データをPCに取り込むことや、生産ライン単位での自動化は可能だ。ただ、そうした取り組みは局所的なものにとどまってしまい、工場全体やサプライチェーン全体のスマート化につなげづらい。古い工場だと動線改善も難しく、デジタル化だけではどうにもならない部分もあると感じている。もちろん、その上でスマートファクトリー化は今後も積極的に推進していく。
MONOist 全社のデータ基盤整備もそうした部分最適化を乗り越えるためのものかと思います。
端山氏 もともとDXに取り組む以前からデータの全社最適化の重要性は意識していたが、事業部の事情もあり着手しない状況が続いていた。MMDXの推進に当たり、データ活用の重要性を認識してももらうことができ、Snowflakeによる基盤整備は進んだ。
ただ、データは蓄積するだけではなく、いかにビジネスに有効活用するかが大事だ。現在は事例の横展開に取り組んでいるところで、その意味ではまだ道半ばだ。
MONOist 今後、データ活用の領域でどのようなことに取り組む予定ですか。
端山氏 データ活用の取り組みが、中期経営戦略で掲げているような数値目標の達成により直接的に結び付くようにしたい。現状ではデータ収集、見える化の段階で取り組みが止まってしまっており、事業成果に結び付くようなデータ活用のフェーズに進んでいる案件は少ない。売り上げの増加や営業利益などの金額的な数値だけでなく、在庫回転率などでもいい。データを見て眺めるだけではなくて、改善のための具体的なアクションにつなげることが求められている。現場だけでなく、経営層もより効果的なデータ活用ができるようにもしていきたい。
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