デジタル怪獣を撃破せよ! データ/AI活用の成功事例にみる生産性向上の手法とは:製造業の生産性を飛躍させるデータ/AI活用の全貌(後編)(2/2 ページ)
製造業の生産性や稼働率を高めるために大きな期待がかけられているのがデータとAIの活用だが、多くの企業でうまくいっていない現状がある。本稿は、前編でデータ/AI活用を阻む“デジタル怪獣”を紹介し、後編ではその退治法となるアプローチや成功事例などを解説する。
成功事例:自動車関連メーカーのデータ/AI活用による製造現場の稼働率向上
デジタル怪獣を克服するための具体的なアプローチを理解したところで、実際の成功事例を見てみましょう。これにより、理論だけでなく実践でどのような効果が得られるのかを具体的にイメージできます。
ケーススタディー:自動車関連メーカーの取り組み
課題と背景
A社は組織の急速な成長に伴い、情報の検索、共有、活用の仕組みが追いついていないという課題に直面していました。生産現場では膨大なデータが日々生成されているものの、それを効果的に活用できていませんでした。特に、設備の異常を事前に検知する予兆管理を望んでいましたが、データが散在しており、収集や整理に多大な工数がかかっていました。
また、品質管理業務では、トラブルの発生時に原因の特定と対策に多くの時間を要し、生産ラインのダウンタイムが長期化する傾向がありました。従来のExcelやPythonを用いたデータ解析は時間と手間がかかり、精度にも限界がありました。これにより、機械の稼働率が低下し、生産計画に遅れが生じるなど、組織全体の生産性に影響を与えていました。
取り組みの概要
これらの課題を解決するため、A社は「マインド変革」「ITスキルの獲得」「ITツールの推進と導入」を3本柱とした全社的な取り組みを開始しました。
まず、生産に関わるさまざまなデータをデータレイクに集約し、ビッグデータ基盤を構築しました。これにより、データの一元管理とアクセスが容易になり、部門間の情報共有が促進されました。データが統合されたことで、設備の状態や製品の品質データなど、1日あたり数億件に上る情報をリアルタイムで活用し、予兆管理や品質不良の要因特定といった現場レベルでのデータ活用までをも迅速に行えるようになりました。
また、社員のデジタル人材育成を目的に、社内に学習システムを構築しました。業務軸でのシラバスを設け、データ解析や機械学習の基礎から実践までを学べるカリキュラムを提供しました。導入したツールの活用講座も設けることで、社員が自らデータ分析やAIモデルの構築を行えるようになり、データ/AI活用の内製化が進みました。
成果と効果
データ/AIを活用したことで、製造工程で発生していた製品の不良要因を迅速かつ正確に特定し、製造プロセスを改善でき、不良発生を7割削減しました。例えば、電池ケースへの液付着不良の問題では、AIによるデータ分析で従来の手法では見つけられなかった関連性を発見し、注入圧力と液付着の関係を明らかにし、工程を改善することで不良率を大幅に低減しました。また、品質不良の要因特定にかかる時間が数日から数時間以内に短縮され、迅速な対応が可能となりました。これにより、生産ラインのダウンタイムが削減され、機械の稼働率が向上しました。
併せてデータ解析の効率化も実現されたことで、社員は考察や対策の立案といった付加価値の高い業務に注力できるようになりました。データに基づく意思決定が浸透し、生産性の向上とコスト削減を実現しました。データ/AI活用の成功は、社員のモチベーション向上にもつながり、組織全体でのデータドリブンな文化が醸成されました。
まとめ
デジタル怪獣を克服し、作業者と機械の生産性や稼働率の向上を実現するためには、全社的な戦略と組織文化の変革が不可欠です。A社の事例に見るように、明確なビジョンと戦略、組織体制と人材の強化、効果的なツール活用と迅速な実行という3つの柱に基づいて取り組むことで、データ/AI活用の効果を最大化できます。
経営層から現場までが一体となり、データという「剣」を巧みに扱うことで、21世紀の製造業における競争力を強化しましょう。データ/AI活用は単なる技術導入ではなく、組織全体の変革を伴うものです。今こそ、デジタル怪獣を倒し、持続的な成長と革新への道を切り開く時です。(連載完)
筆者プロフィール
笹口 和秀(ささぐち かずひで) DataRobot Japan, AI サクセスディレクター
主に建設業や製造、ユーティリティーの顧客へのAI戦略策定や組織/人材育成などに従事。併せて、脱炭素/GXへのAI活用/促進を担当。前職はコンサルティングファームのマネージャーとして事業戦略策定やDX新規事業立案などに従事。
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