それでも挑戦は止められない 東レ発ベンチャーが見つけた「幸せな関係」の作り方:新製品開発に挑むモノづくり企業たち(7)(3/3 ページ)
本連載では、応援購入サービス(購入型クラウドファンディングサービス)「Makuake」で注目を集めるプロジェクトを取り上げ、新製品の企画から開発、販売に必要なエッセンスをお伝えする。第7回では、先端技術を搭載した服で「未来のファッション」の創造に取り組むMOONRAKERS TECHNOLOGIESの事例を紹介する。
Makuakeで在庫管理の難しさを解決
――Makuakeを使おうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
西田氏 ファッションビジネスの最大の課題は在庫管理の難しさにあります。Makuakeは、これを解消できる受注販売方式を採用しています。アパレル業界では、サイズや色があるため最小管理単位(SKU)が多くなり、在庫管理が非常に困難とされています。そのため、偏在する在庫を売り切るためのセールが半ば常態化しています。しかしそうすると、定価で購入してくれていた顧客が離反し、セールでしか売れなくなるという悪循環が生じ、業界全体が厳しい状況に追い込まれています。
一方、Makuakeは受注販売形式なので在庫を持つ必要がなく、無駄が一切発生しません。つまり、セールを行う必要がないのです。私たちのように今まで世界になかった新しい商品を販売する場合、売れるかどうかの予測が難しく、在庫を持った販売は大きなリスクです。新商品をテストマーケティングするには、Makuakeが最高ですし、新しいモノを多くの人に周知しながら受注することにおいて、Makuakeのプラットフォーム以上のものは現状では見いだせていません。
服を変え、産業を変え、日本を変えていく
――Makuakeの最新プロジェクト「優れた普通のセットアップ|ムーンテック2.0」について教えてください。
西田氏 当社のヒット商品「MOON-TECH Tシャツ」は、熱狂的なファンのおかげで、この夏は2023年の2カ月分の販売数となる1000枚規模を投入しても1日で売り切れてしまう状態になりました。でも私たちは、ヒット商品が出たからといって進化を止めようとは思いません。ファンが期待してくれているのも、私たちのその「常に挑戦する」姿勢だと考えていますし、また、先端技術も日々進化しているので、アップデート版を開発し続けたいと考えています。
MOON-TECHはスポーツやビジネスユースには非常にフィットするのですが、合繊素材特有の均一性の高さから、質感が無機的に見えるという声もありました。そこで、MOON-TECHの優れた機能性を維持しつつ、ナチュラルな質感と触感に挑戦しました。さらに、これまでMOONRAKERSはベーシックなデザインが中心でしたが、今回は「未来のベーシック=優れた普通」を具現化したいと考えて、かって無印良品で「足なり直角靴下」という、まさに”優れた普通”を生み出したマーケター、奥谷孝司氏が率いる「Super Normal(スーパーノーマル)」とのコラボレーションで、ノーカラーのジェンダーレスなカーディガンジャケットという新しいスタイルを採用しています。MOON-TECHの利便性はそのままに、ナチュラルなフィーリングと新しい形を取り入れることで、これまでのセットアップにはない「未来の“超普通”」を具現化できたのではないかと考えていて、私たちもこの新しい挑戦に対するユーザーの反応を、とても楽しみにしています。
――今後、MOONRAKERSで実現していきたいことは何でしょうか。
西田氏 「先端技術を搭載した服で、人々の生活を快適で便利で美しい未来に変えていく」ことですね。また、ファッションビジネスの問題に対して、新たなビジネスモデルを提供していく。そのモデルケースになって、大企業を変革して日本社会を変えていく。「服を変え、産業を変え、日本を変えていく」のがMOONRAKERSの目指すところだと考えています。
当社はこれまで東レグループがやりたかったけれど、できなかったことをソリューションするプロジェクトでもあります。先端素材はどうしてもロットが大きくなるので、小規模な取り組みができない状況にありました。しかし、規模は小さくても面白い話というのは山のように存在します。
東レは非常に開発オリエンテッドな会社で、おそらく新しい生地素材を年間で優に1000種類以上も開発しているんじゃないかと思います。ところが、実際に採用されるのは100種類未満。900種類もの生地が開発のみで終わっていくのです。それらの生地は性能が低いから採用されないのではありません。逆に性能が高すぎて、その分若干値段が高くなるため採用されないんです。
でもその値段の差は商品1枚当たりでみると、せいぜい数百円程度です。性能の高さをしっかりユーザーに知ってもらえれば、その性能で生活が劇的に変わると感じられるのであれば、ユーザーは必ず支持してくれると私たちは信じています。
私たちはそういうものを、どんどん世に出していきたい。私たちの強みはMOON-TECHが売れていることではなく、最新の先端素材を継続的に開発してローンチできるところです。ユーザーの生活を「未来」に変えていく新しいプロダクトをどんどん出せるし、その実力もある。だったらやるしかないよねと。それは今まで誰もやったことのない挑戦です。簡単ではないし、失敗するかもしれない。それでも、なぜでしょう、やっぱり挑戦することを止められないんですよね。
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筆者紹介
長島清香(ながしま さやか)
編集者として地域情報誌やIT系Webメディアを手掛けたのち、シンガポールにてビジネス系情報誌の編集者として経験を重ねる。現在はフリーライターとして、モノづくり系情報サイトをはじめ、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
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