日立製作所の成長は「これからが本番」、産業系セクター率いる阿部氏が描く青写真:日立の新成長エンジン「コネクティブ」の全貌(1)(3/3 ページ)
日立製作所では2022年4月に多様な産業系事業を傘下に収めたCIセクターを設立した。本連載では多彩な事業を抱える日立製作所 CIセクターの強みについて、それぞれの事業体の特徴と、生み出す新たな価値を中心に紹介していく。第1回となる今回は新たにCIセクター長に就任した阿部氏のインタビューをお届けする。
知見をソフトウェアアセット化して成長ドライバーに
MONOist クロスBUで新たな価値提案を進めていくためのポイントについてどう考えていますか。
阿部氏 さまざまな強みを持つプロダクトやサービスを組み合わせて価値を高めていくためには、ソフトウェアの力が重要になる。ソフトウェアといっても仕様が決まったものを構築する力ではなく、顧客やパートナーと一緒に課題を探りながら最適な形に構築することが必要だ。そこで大きいのが、2021年7月に買収をしたグローバルロジックのケイパビリティとなる。
グローバルロジックはデジタルエンジニアリングサービスを提供している。「Chip-to-Cloud」としてクラウド領域でのシステム構築なども行っているが、エッジ領域に強い部隊もおり、そこがCIセクターのカウンターパートとなっている。エッジ領域でのシステム構築の知見があるために、さまざまな現場からのデータを活用し、価値を創出するためのシステム構築などを容易に行える。そのため、産業用機器などを組み合わせたさまざまなデジタルサービスの展開を早めることができる。
将来的には、業務における知見やノウハウなどをデジタルアセット化した無形固定資産を作っていくことを目指しそのための仕組みづくりに取り組む。
CIセクターはさまざまな顧客を抱えており、現場の困りごとに直接アプローチできる。それらの課題を解決するためのシステムをアジャイル開発ですぐにプロトタイプとして構築し、グローバルロジックを通してエンジニアが形にする。そしてその解決モデルを無形固定資産化し、水平に展開できるようにする。そういうサイクルを作り出していく。既存事業についてはそこが成長のカギを握ると捉えており、その仕組み作りが投資領域だと考えている。
また、現在はCIセクター内のクロスBUでの価値創出にとどまっているが、今後はクロスセクターでの新たな価値創出により積極的に取り組んでいく。
例えば、製品がコネクテッド化していく中でプロダクトセキュリティの重要性も高まっているが、それを個別に対策を取り入れるのは難しい場合も多い。そこで、デジタルシステム&サービス(DSS)セクターのサービスを使って、コストを抑えた形で脆弱性管理などを実現する。さらに、こうした枠組みが社内で本当に価値があると確認できれば、CIセクターで抱えるさまざまな製造業の顧客に、同様のサービスを提案できるようになる。
DSSセクターのセキュリティサービスを一方的に使うのではなく、製造業として使いやすい形にCIセクターとしても提案を行い、一緒に使いやすく安全なソリューションに仕立て上げていけるような姿を目指していく。DSSセクターとのクロスセクターの取り組みだけではなく、グリーンエナジー&モビリティ(GEM)セクターとの連携でも、需要家サイド側の課題やエネルギーの活用状況などを共有し、新たな課題解決や価値創出を進めていけると考えている。クロスセクターで「One Hitachi」での提案を強化していく。
豊かなグローバル顧客ベースを生かしてOne Hitachiでソリューション展開
MONOist あらためてCIセクターの強みをどう捉えていますか。
阿部氏 CIセクター内でさまざまな場を持つ点ももちろんだが、最も大きな強みは、多様なグローバル企業の顧客ベースを抱えている点だと考えている。多様な顧客ベースがあり、さらにそれに伴う多様なパートナーがいる。自動車産業やバッテリー産業、バイオやヘルスケア産業、半導体産業やデータセンターなど、伸びる顧客のチャンネルがあり、その現場の話が聞ける立場にある。
これを生かしてOne Hitachiで課題解決を進めていく。さらにOne Hitachiでも足りない部分は、パートナーを巻き込んで、企業の壁を越えて価値創出に取り組んでいく。ここまでの数年間でそういう企業文化としてもそういうことが行いやすい環境ができてきた。それを伸ばしていく。
豊富な顧客ベースで社会が抱える真の課題へのタッチポイントを持ち、そこに向けて日立製作所グループの持つ豊富なソリューションを結び付けて価値化していけるという点から、私は日立製作所の将来の成長をCIセクターが握ると考えている。その責任感を持って取り組んでいく。
MONOist 現在課題として捉えているのはどんなことですか。
阿部氏 課題はいろいろあるが、最も大きなものは所属する各個人が自ら価値を高め挑戦していける土壌を作るところだと考えている。CIセクターはミッションクリティカルな事業領域も数多く抱えているので業務でリスクを取ることはできないところも多くあるが、事業創出という点ではリスクを取りながら新たな挑戦をしていくことは、専門領域の間を飛び越えて価値創出をしていく今後はより重要になる。
事業としてクロスBUやクロスセクターで新たな枠組み作りを進めやすい環境ができてきたので、それを一人一人が生かしていけるような文化を醸成していきたい。そのためには、納得と共感が得られるような戦略や仕組みが必要だと考えており、次期の中期経営計画ではそういう仕組みも盛り込んでいく。日立製作所ももともとはベンチャー企業だった。そのためには最も重要なのは人であり、人の力を引き出すことに力を入れる。
日立製作所は今もある程度好調な業績を残せているが、成長の本番はこれからだと考えている。個々の強いプロダクトがあり、それを支える技術があり、これらの価値をデータで結ぶITがあり、さらに豊富な顧客にアプローチできる体制もあり、それぞれの要素は出そろっている。あとはこれらを組み合わせることでより大きな価値創出を図っていくというフェーズだ。CIセクターで新たな挑戦を重ね、日立製作所全体のさらなる成長をけん引していきたいと考えている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 日立のコネクティブインダストリーズセクタートップに阿部淳氏「ITとOTを熟知」
日立製作所が2024年4月1日付で行う役員人事を発表。新たな代表執行役 執行役副社長に阿部淳氏とブリス・コッホ氏が就任する。阿部氏は、日立の産業系事業を傘下に置くコネクティブインダストリーズセクタートップのコネクティブインダストリーズ事業統括本部長となる。 - コングロマリットを価値に、日立が描く「つながる産業」の先にあるもの
日立製作所はIoTプラットフォーム「Lumada」を中核としたデジタルソリューション事業の拡大を推進。その1つの中核となるのが、産業・流通ビジネスユニットである。日立製作所 執行役常務で産業・流通ビジネスユニットCEOの阿部淳氏に取り組みについて聞いた。 - 新たな成長軌道を描く日立のCIセクター、DSSやGEMとの“クロスセクター”を重視
日立製作所がコネクティブインダストリーズ(CI)セクターにおける「2024中期経営計画(2024中計)」の進捗状況と次期中計に向けた新たな成長戦略などについて説明。2024年度以降は、半導体/バッテリー製造、バイオ関連などの高成長分野に投資を集中して新たな成長軌道を描いていく方針だ。 - データで「何」を照らすのか、デジタル変革の“際”を攻める日立の勝算
産業用IoTの先行企業として注目を集めてきた日立製作所。同社が考えるデジタル変革の勝ち筋とはどういうものなのだろうか。インダストリーセクターを担当する、日立製作所 代表執行役 執行役副社長 青木優和氏に話を聞いた。 - ボッシュが日立の空調合弁会社を買収、清水事業所はなぜ日立グループに残るのか
日立子会社の日立グローバルライフソリューションズ(日立GLS)とジョンソン・コントロールズ・インターナショナル(JCI)は、両社が共同出資で設立した空調事業の合弁会社であるジョンソンコントロールズ日立空調の全株式をボッシュに譲渡する。 - 日立がグローバルロジックとのシナジーで国内企業のDX支援へ、2022年度に開始
日立製作所は2021年7月に買収を完了した米国のデジタルエンジニアリングサービス企業であるグローバルロジックとのシナジー創出に向けた取り組みについて説明。日立の社内事業におけるグローバルロジックの活用成果を基に、2022年度から日立の協創拠点「Lumada Innovation Hub Tokyo」を用いた国内顧客向けのDX支援サービスの提供を始める。