これまでの機械加工の技術進化
日本のモノづくりを支える加工機産業に求められるニーズは、「良いものを早く安く加工できる安価な加工機の創出」に集約されます。工作機械を一例に取ると、これに携わる技術者たちは、高精度化、高速化、高生産性化、低価格化が大きな課題でした。
日本の工作機械産業は1982年に米国を抜いて生産額世界第1位となり、2009年に中国に抜かれ、現在はドイツと2位を争っています。私が工作機械技術者として歩んだこの40年を、進化した技術を例に少し振り返りたいと思います。
高精度化技術
今から40年ほど前は、いわゆるNC化率(生産高基準)が約50%で、まだまだ手動操作の汎用工作機械が主流でした。CNC装置メーカーや工作機械メーカーが積極的に協業して数値制御技術を大きく進化させたことで、現在ではNC化率90%を超え、NC工作機械が主流となりました。
これは、コンピュータ技術の発展に同期してCNC装置メーカーが数値制御技術を発展させたことと同時に、機械メーカーに独自のアプリケーションソフトウェアエリアを開放したことで、機械メーカー各社が自社製品のオリジナル機能を持たせ、使いやすいNC工作機械に仕上げていったことが大きく起因しています。
従来、汎用工作機械の手動ハンドルでの切込みは0.1mm、0.01mmと言ったmmオーダーから、NC工作機械では0.001mm、0.0001mmといったμmオーダーさらにはnmオーダーに移行してきています。これには、機械そのものの挙動や機上で加工物を計測するなど、新たな計測技術の構築も不可欠でした。
高速化技術
高速化は次に述べる高生産性にも大きく関係しますが、ここでは「早く加工する技術」を中心に記します。
特に難削材などの微細切削加工を例にとると、工具と被削材との相対速度である切削速度において、周速度の関係から接触径が小さい工具ほど、速く回転させる必要があります。
そういった観点から、工具や被削材をより速く回転させたり、より速く移動させたりするための技術が求められてきました。主軸の軸受やスライド摺動面の摩擦を減らす静圧技術の確立、駆動するモーターの高速化やリニアモーター化、回転体や移動体の軽量化技術も発展しました。
高生産性技術
日本のモノづくりは、汎用工作機械を使用していた時代から生産量を増やすには、稼働時間、労働時間を増やす、という「人海戦術的な」ことをしてきました。いわゆる労働生産性は欧米に比較して低く、これを高めるために、省人化できる工程集約型の加工機が求められました。1台で段取替えをしない加工機として、多軸加工技術、複合加工技術が求められました。
工作機械メーカーは、各社得意とする加工法やその加工機を持ち、他社との競合を避けてきた背景があります。特に複合加工技術の取り組みは、これまで自社では持たない新たな加工技術への挑戦となりました。
低価格化技術
工作機械は、積み上げ式で生産する「擦り合わせ技術」で構成され、スライドなどの重量物移動で変化する姿勢や精度変化を考慮した「キサゲ作業」といわれる熟練技能を基に生産されてきました。
これらは作業者の暗黙知に頼るところが多く、簡単には海外移転できない組み立て仕上げ技術です。工作機械メーカー各社は、この暗黙知に頼らない機械構造の採用やモジュール生産技術の確立など、独自の低価格化技術を構築してきました。
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