低温下のステンレス鋼で延性を失わずに高強度化できるメカニズムを解明:研究開発の最前線
京都大学らは、低温下のステンレス鋼で延性を失わずに高強度化できる手法を発見し、メカニズムを解明した。ステンレス鋼の結晶粒を1ミクロン以下に超微細化することにより、低温での延性と強度を両立できる。
京都大学は2024年10月15日、低温下のステンレス鋼で、延性を失わずに高強度化できる手法を発見したと発表した。ステンレス鋼の結晶粒を超微細化することにより、低温での延性と強度を両立できる。J-PARCセンターとの共同研究による成果だ。
研究では、市販の304ステンレス鋼に一般的なプロセスである2段階の圧延加工と熱処理を施して、結晶粒を1ミクロン以下に超微細化した。作製した304ステンレス鋼(UltrafineGrained:UFG304)を用い、室温から77Kの低温までのいくつかの温度で引張試験を実施したところ、弾性を保つ限界が室温では1.0GPaだが、77Kでは1.4GPaに向上することが判明した。
破断せずに延びる限界は温度が低くなるにつれて低下するが、77Kでも約25%延ばすことができる。また、220K以下では変形の後半で加工硬化が起こり、77Kでは1.9GPaの最大強度を示した。
研究グループは、UFG304の低温状態での変形メカニズムを、中性子回折とデジタル画像相関(DIC)法を併用して解析。その結果、結晶構造の変化など、室温での変形と異なる複数のメカニズムが段階的に起こっていることが明らかとなった。
強度と延性のバランスが良いステンレス鋼は、構造材料として広く用いられている。UFG304は、通常の状態に比べ、室温状態での弾性限が約4倍程度向上することから、低温下での機械的特性向上が期待されていた。
アルミ合金や銅合金などの他の金属材料も、結晶粒の超微細化によって同様の効果を得られる可能性があり、低温用構造材料開発への応用が注目される。
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