知っておくべき無線通信技術の基礎知識と製造現場の無線通信環境:製造現場への無線通信技術の導入(2)(1/3 ページ)
本連載ではNEDOが公開している「製造現場における無線通信技術の導入ガイドライン」の内容を基に製造現場への無線技術の導入について紹介する。第2回は、無線通信技術の基礎知識と製造現場における無線通信環境、無線システム導入時の注意点を説明する。
製造業のデジタル化が進むと、多くのプロセスが無線通信に依存します。デジタル化の効果を最大化するためには、無線通信の安定的な導入、運用が必須です。本連載では、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公開している「製造現場における無線通信技術の導入ガイドライン」に基づいて、製造現場への無線通信技術の導入について紹介しています。
今回は、製造現場へ無線通信技術を導入する際に知っておくべき「無線通信技術の基礎知識」を説明するとともに、製造現場における無線通信環境と無線システム導入時の注意点について解説します。
→連載「製造現場への無線通信技術の導入」のバックナンバーはこちら
無線通信の基礎知識
無線通信は、ケーブルを使用せずに通信が可能なため、機械の移動や作業環境の変化に柔軟に対応できるという利点があります。一方、電波は目に見えないため、安定した無線通信の導入と運用には、各通信規格の特性を把握し、その伝わり方を理解しておくことが重要です。
電波の特性(電波の伝わり方)
電波は、「直進」する特性を持ちながらも、「反射」「透過」「回折」します。
例えば、電波は木やガラスなどの非金属製の障害物は「透過」しますが、建物や厚みのある金属板などの障害物では「反射」します。また、水分に当たるとエネルギーの一部が「吸収」され、電力が「減衰」します(減衰は距離が離れることによっても起こります)。「回折」は、障害物の後ろまで回り込むことを指し、周波数帯が低いほどその度合いが大きくなります。
周波数帯に着目してみると、低い周波数帯(波長が大きい周波数)ほど直進性が弱く、回折しやすい一方、情報の伝送量が少ないという特徴を持ちます。逆に、高い周波数帯は直進性が強く、情報伝送量が多いという特徴を持ちます。
さらに、無線通信に影響を与える要因として「干渉」「ノイズ」「フェージング」があります。複数の無線機器から同じ周波数帯で通信すると電波の「干渉」が発生し、通信速度が低下したり、通信が途絶えたりすることがあります。
また、工作機械の動作などによって「ノイズ」が発生し、無線通信に悪影響を及ぼすこともあります。「フェージング」は、同じ送信機から発射された電波の直接波と反射波(マルチパス)が合成されて受信機に届く現象で、合成のタイミングによっては、電波を強め合うことも弱め合うこともあります。
無線通信規格の特徴と選定
製造現場で安定した通信環境を構築するには、適切な無線通信規格を選定することが肝要です。ガイドラインでは無線通信規格の特徴について、製造現場ならではの状況も踏まえながら詳細に解説しています。ここでは、無線通信規格を選定する際に考慮すべき「通信速度」「通信距離」「遅延」「混雑度」「消費電力」という5つのポイントを示します。
通信速度:大量のデータを頻繁にやりとりする場合には、Wi-Fi(5/6/6Eなど)や5G/ローカル5Gのような高速通信規格が適しています。一方、少量のデータを長期間にわたって低消費電力で送信する場合には、LPWAが有効です。
通信距離:工場の敷地の広さや、カバーすべき範囲によって適切な通信規格が変わります。短距離にはRFIDやBluetooth、中距離にはWi-Fi、長距離にはLPWAや5G/ローカル5Gが役立ちます。
遅延:製造現場のユースケースごとに、許容される遅延量は異なります。リアルタイム性が要求される場合、低遅延な5G/ローカル5Gなどが有効となります。また、これから流通するWi-Fi 7も低遅延が期待されています。一方、低消費電力で広範囲の通信にはLPWAが有効ですが、通信距離が長いため、遅延は大きくなります。
混雑度(干渉):2.4GHz帯はWi-FiやBluetoothなど多くの機器で利用されるため、混雑します。これを避けるために、5GHz帯のWi-Fiやローカル5Gなどの他の周波数帯域を利用することが有効です。なお、近年のWi-Fiは複数の周波数帯を利用したり、複数のチャネルを束ねたりする技術が搭載されています。製造現場では、必要以上に周波数帯を占有しないように設定することが重要です。
消費電力:バッテリー稼働の機器で、長期間にわたって安定した運用を行う場合には、低消費電力で通信が可能なLPWAが適しています。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.