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キヤノンの高機能材料がペロブスカイト太陽電池の耐久性と性能安定性を高めるワケ素材/化学インタビュー

ペロブスカイト太陽電池は、建物と設備の垂直面や曲面などに取り付けられる利点がある一方で、製造に当たりペロブスカイト結晶を成長させることが難しい点や寿命が短い点といった課題がある。そこで、これらの課題の解消で役立つ可能性がある高機能材料を開発したキヤノンに話を聞いた。

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 キヤノンは2024年6月18日、ペロブスカイト太陽電池の耐久性および発電性能の安定性を向上する高機能材料を開発したと発表した。

 キヤノン 周辺機器事業本部 化成開発センター 主席の奥田篤氏に、この高機能材料の開発背景や特徴、現在の開発状況、今後の展開について聞いた。

OPCドラムとペロブスカイト太陽電池の構造は似ている

キヤノン 周辺機器事業本部 化成開発センター 主席の奥田篤氏
キヤノン 周辺機器事業本部 化成開発センター 主席の奥田篤氏 出所:キヤノン

MONOist 今回の高機能材料の開発背景を聞かせてください。

奥田篤氏(以下、奥田氏) 当社はプリンタや複合機で画像を印刷するための基幹部材として、アルミ二ウム製シリンダーの表面に有機感光体をコーティングしたOPCドラムなどの電子写真感光体に関する研究/開発を長年にわたり行っている。

 OPCドラムの層構成は上から順に、ホール輸送層→電荷発生層→電子輸送層→アルミシリンダーとなる。一方、ペロブスカイト太陽電池の層構成は上から順に、電極→ホール輸送層→ペロブスカイト層→電子輸送層→透明電極→ガラス/フィルムだ。両方とも有機材料から成り、層構成と各層の役割がほぼ同一となっている。そのため、当社が有すOPCドラムの材料技術を生かした高機能材料によりペロブスカイト太陽電池の機能向上を図れると考え、この高機能材料の開発に着手した。

 しかしながら、OPCドラムとペロブスカイト太陽電池では用途が異なるので、高機能材料の開発で必要な評価や素子の作製に苦労した。ただ、当社は電子写真感光体の開発のために材料の分子設計が行える体制を有していたため、高機能材料の評価や素子作製の問題をクリアできた。

 今回の高機能材料の素子性能やコンセプトに関しては当社で検証するとともに、桐蔭横浜大学 特任教授の宮坂力氏と共同研究を行い、同氏のグループによる解析を通して客観的な評価を受けた。その結果により、ペロブスカイト太陽電池材料市場において優位性があると考えている。

2つの大きな課題を解消する機能とは?

MONOist 今回の高機能材料の特徴を聞かせてください。

奥田氏 一般的にペロブスカイト太陽電池には2つの大きな課題がある。1つ目は製膜と同時にペロブスカイト結晶を成長させることが難しいことだ。特に面積が大きいペロブスカイト太陽電池では、全体を凹凸や隙間をなくして結晶化することが難しい他、ペロブスカイト結晶同士が接する界面は隙間が大きくなりそこで短絡が生じやすくなってしまう。これらの要因により大面積のペロブスカイト太陽電池ではエネルギー変換効率を高めることが難しい。そのため、ペロブスカイト結晶の成長方法に関しては、各メーカーが製造条件を含めて独自のノウハウを持っている状況だ。

 2つ目はペロブスカイト太陽電池の寿命が短いことだ。短い寿命にはさまざまな要因がある。例えば、外部から内部への水分の侵入によるペロブスカイト層の劣化やペロブスカイト結晶中のハロゲン化物イオン分離の問題などが挙げられる。外部から内部への水分の侵入は封止フィルムをペロブスカイト太陽電池に搭載することで防げるが、ハロゲンイオン化物イオン分離の問題は解決できない。

 ペロブスカイト層はイオン性の物質であるため、ペロブスカイト結晶を製膜した際にはハロゲン化物イオンが結晶中にとどまっているが、ペロブスカイト太陽電池を繰り返し利用すると、ハロゲン化物イオンが分離し他の層に移動してしまう。その結果、ペロブスカイ結晶の構造が崩れて、ペロブスカイト太陽電池が発電しなくなる。これが寿命短縮の大きな要因になっている。

ペロブスカイト太陽電池の一般的な課題
ペロブスカイト太陽電池の一般的な課題[クリックで拡大] 出所:キヤノン

 そこで、当社ではこれらの課題を解消する高機能材料を開発した。今回の高機能材料は、ペロブスカイト太陽電池のペロブスカイト層とホール輸送層の間に設けることで、ペロブスカイト層の凹凸をしっかり被膜できる。この高機能材料を100〜200nm程度の膜厚で被膜しても、ペロブスカイト太陽電池の性能が落ちないことも分かっている。ペロブスカイト太陽電池の短絡の発生を抑えられる他、大面積のペロブスカイト太陽電池におけるエネルギー変換効率の向上が期待できる。

課題解決に向けたキヤノンの新材料
課題解決に向けたキヤノンの新材料[クリックで拡大] 出所:キヤノン

 また、この高機能材料はペロブスカイト層から分離するハロゲン化物イオンをトラップ(捕捉)する機能を持つ。これにより、ペロブスカイト太陽電池が繰り返し利用されても、ペロブスカイト層からハロゲン化物イオンが分離することを抑制できる。

 つまり、今回の高機能材料をペロブスカイト太陽電池に搭載することで、ハロゲン化物イオンの分離を防くことにより耐久性を高められる。併せて、ペロブスカイト層の凹凸を被膜することで、繰り返しの発電でも性能が落ちず、大面積化での発電効率の低下も防げる。

MONOist 現在の進捗と今後の展開を聞かせてください。

奥田氏 現在は、ペロブスカイト太陽電池の量産を検討しているメーカーに今回の高機能材料のサンプルワークを行い、評価を受けている段階だ。この評価で改良が必要だと分かれば、機能を微調整することも検討している。今後は耐久性テストなどを行い、性能を確認していく。

 なお、今回の材料はグループ会社の福井キヤノンマテリアルが製造設備を有しており、速やかに量産に対応できる。ペロブスカイト太陽電池市場はまだ立ち上がっていないので、当初は新たな設備投資は不要と想定しているが、需要が高まるようであれば設備投資も検討していく。

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